2022年の映画・ドラマシリーズアワード ―― 利己的な振舞いが横行する時代に利他主義の美しさを広めよう

いつも時代をリファレンスすることで、オーディエンスに気付きを与えてくれる映像作品。2022年に観た映画・ドラマシリーズを振り返り、愛すべき映像作品をランキング形式で並べつつ、それらの作品から受け取った時代の空気感を整理します。

本来は昨年中に記事作成・公開をしたかったのですが、昨年観ておかなければいけない大作ドラマシリーズである「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」を、年末年始の休みを利用してU-NEXTを契約して全10エピソードを観終えた上で判断しました。結果、ハウス・オブ・ザ・ドラゴンは、もうひとつの大作ドラマシリーズ「ロード・オブ・ザ・リング」と世界観も、登場人物も似ていておもしろかったのですが、甲乙がつけがたく、それゆえに心にぐっと残るような印象を両作品とも感じられずに、ランク外となりました。

ロード・オブ・ザ・リング、ハウス・オブ・ザ・ドラゴンを抑えて、心に残った、時代を表象する作品を振り返っていきます。

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昨年までのアワードの振り返り

はじめに、少し振り返りから。2019年は「気候変動」こそが時代のナラティブであることを、そして全人類が戦うべき課題であることを感じました。2020年は「女性活躍」。気高く美しく、因襲や課題と向き合い、前に進む女性の姿をたくさん観ました。昨年、2021年は「戦いではなく変革」。女性が先頭に立ち振舞うことで、大きな課題を打ち倒すのではなく、変革する。その姿勢が今は大切であり、またその時代の男性の振舞いの手本も見ることができました。そして、2022年は ―― 心に残る示唆を与えてくれた5作品を整理します。

【第5位】ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェイズ4を締めくくる作品。そして、前作では圧倒的な主人公として振舞ったチャドウィック・ボーズマンを亡くした後のブラックパンサーの世界がどう描かれるのか。世界的に注目された作品です。新時代のブラックパンサーには、Z世代の女性である妹の「シュリ」がその役割を担うことになりました。シュリはZ世代を表象するように、伝統に拘らず、自由奔放に、そして科学の力と科学者の声を大切にします。そんなシュリが絶望と脅威に晒されたとき、最初に彼女を動かしたのは「怒り」でした。現代社会のZ世代を動かす力をほのめかす振舞いです。しかし、最後は「協調」を選ぶことで、ワカンダの王となる成長の物語に帰着します。怒りをアクティビズムの源泉にするのではなく、利他を考え行動する。重荷と絶望を背負う若者と、その世代と共に生きる我々の世代にも振舞い方を教えてくれる内容だったのではと思います。

【第4位】THE FIRST SLUM DUNK

週刊少年ジャンプでの連載終了から26年が経ち、作者の井上雄彦自ら監督・脚本・原作を手掛けた劇場公開映画「THE FIRST SLUM DUNK」が第4位です。26年前も、一癖二癖ある利己的なメンバーが、それぞれの役割を認知し、湘北高校のバスケ部メンバーとして協調し、強敵と向かい合っていく、チームとなっていく様にカタルシスを感じていたことを思い出しました。本作ではそれに加え、主人公として描かれた「宮城リョータ」が、母と家族になっていく様子も描かれていました。バラバラであったメンバーや家族が、利己的な振舞いから、利他を考えることで「~になっていく」というメッセージを強く感じ、今必要な振舞いを描いてくれた作品であると心に残りました。

【第3位】ミズ・マーベル

ミズ・マーベル

第3位は2022年6月~7月に公開されたマーベルのドラマシリーズ「ミズ・マーベル」です。ブラックパンサー、スパイダーマンという劇場公開映画を抑えて、2022年のMCU作品ではミズ・マーベルに一番の評価を与えます。パキスタンにルーツを持つ、米国暮らしのハイティーンが主人公です。ヒーローにあこがれる彼女が本当にヒーローになるまでを描くストーリーですが、その過程が素晴らしい。いずれ「ミズ・マーベル」となる「カマラ」は曾祖母からヒーローの力を継承し、パートナーからマスクを、母親からコスチュームを、そして最後に父から名前を与えられることで本当のヒーローになっていきます。多くの人からの利他を想う振舞いを身に受けて、彼女は成長する。ヒーローは誕生する。次世代に想いを託すための行動の大切さを気づかせてくれる作品です。

【第2位】リコリス・ピザ

リコリス・ピザ ―― 作品のストーリーについて

第2位は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画「リコリス・ピザ」です。本作の登場人物はみんな、チャーミングではあるけれどダメな人ばかり。特に主人公の15歳男子の「ゲイリー」と、25歳の女性「アラナ」は環境や気分にすぐに流されて、つい利己的な行動を起こしてしまう不安定な二人です。そんな二人が最も輝く瞬間は、他者を想い、その窮地を救うために走り出す、疾走する瞬間です。スクリーンを右から左へ、左から右へ、疾走する若者は本当に美しい。その美しさの背景には利他を想う気持ち、利他主義の美しさを感じてしまいます。利己的な振舞いが横行する現代に、利他の気持ちの美しさをふわっと感じさせてくれる、記憶に残る作品です。

【第1位】ベター・コール・ソウル

2015年から6シーズンに渡って放送された、史上最高のTVシリーズ「ベター・コール・ソウル」が本年最終シーズンを迎えました。それまで史上最高だった2008年からはじまった「ブレイキング・バッド」、その2つの作品をまたいだ14年に及ぶ「アルバカーキ・サーガ」が見事に円環を閉じた1年でした。これらの作品のテーマは、ブレイキング・バッド。社会・環境に影響されて、否応なしに悪事に手を染めてしまう人たちの物語です。14年間で数々の魅力的なバッド・ヒーローが登場し、去っていった作品でもあります。そして最後に残ったのが「ジミー」と「キム」。やはりブレイキング・バッドしてしまった二人ですが、最後に利己的な振舞いを反省し、利他的に行動した二人がこの超大作大河ドラマの円環を美しく閉じました。ずっと記憶に残り続けるであろう本作が、2022年の第1位です。

利己的な振舞いが横行する時代に利他主義の美しさを広めよう

2022年は自分勝手で利己的な行動が目に付きました。ロシアのウクライナ侵攻にはじまり、右派・ナショナリズムの台頭や、自国優先の貿易・資本主義経済社会が進行しました。利己的な振舞いが横行する社会。そんな空気の2022年に共感を覚え、感動した映像作品が5作並んだと思います。

いずれも利己的な人物が、利他的な行動を起こすことで良い結末を迎える物語ばかりでした。そして、そうした行動を起こした人たちの美しさが映像からひしひしと伝わってきました。きっと、2023年は利他的な行動の大切さに気が付いた人たちが、良い行動と結果に結びつける1年だと思います。私もそうありたいと思っています。利己的に振舞うこと、これが今の時代のナラティブです。2023年もまた新たな変化を示唆してくれると思います。今年もたくさん観たいと思います : )

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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