リコリス・ピザ ―― 利己的な空気が横行する今、利他のために走る姿が美しい

ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督の映画「リコリス・ピザ」を観ました。劇場は久しぶりのTOHOシネマズ シャンテ。平日の夜に訪れましたが、7割ほど席が埋まっていて、PTAの根強い人気が分かります。

作品はストーリーも撮影と編集も。そしてその背景にいろいろと思いを巡らせてみて、とてもよかったです。本国アメリカでは昨年2021年の公開作品ですが、2022年の夏の入り口に観ることができて、今の季節や社会の空気感を見渡して、このタイミングでよかったなとも思います。いつもの視点で感想を記録したいと思いますが、7月1日公開作品なのでスポイラー(ネタバレ)を気にする方はお気をつけください。

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リコリス・ピザ ―― 作品の背景について

リコリス・ピザ ―― 作品の背景について

本作の登場人物はみんな、チャーミングではあるけれどダメな人ばかり。特に主人公の15歳男子の「ゲイリー」と、25歳の女性「アラナ」は環境や気分にすぐに流されて、つい利己的な行動を起こしてしまう不安定な二人です。物語の舞台は1970年代だけれども、今の世界を見渡すとコロナ禍やインフレ、食料危機とそして戦争と。協調が大切であることをわかりつつ、どうしても自国優先のナショナリズムに走りがちな空気感を感じます。

そんな現代の空気感と二人の行動が重なって見えてくるところで、二人は相手の窮地を救うために走り出します。利己的な行動から反転し、利他の気持ちで全力疾走する姿がとても美しく見えます。そして、ラストシーンでは二人がともにお互いを求め合い走り出し、幸福なラストを迎えます。こんな環境だからこそ、利他的であることの大切さをふわっと感じさせてくれる作品でした。

リコリス・ピザ ―― 作品のストーリーについて

リコリス・ピザ ―― 作品のストーリーについて

作品の舞台は前述の通り、1973年のハリウッド。ナラティブは25歳の写真技師アシスタントとして働くアラナと、高校生ながら子役としても働くゲイリーの2人が担います。ある日、宣材写真の撮影でスタッフをして働くアラナを見かけたゲイリーは恋に落ち、アラナを夕食へと誘います。ゲイリーが15歳であることを知ったアラナは最初は相手にしないそぶりを見せますが、誘われるがままにディナーを一緒にすることに。そこから、若くて不安定な二人の不思議な関係がはじまります。

恋人かと聞かれると「そうではない」と答えるけれど、二人は連れ添って行動するようになります。アイデアマンであるゲイリーが思いつく、ウォーターベッドの販売事業やピンボールバー事業に巻き込まれて手伝うアラナ。そして失敗したりトラブルに巻き込まれたり。というストーリーが繰り返されます。

その過程では、気分屋のゲイリーはアラナ以外の女性に惹かれてしまったり、またアラナはティーンの子どもたちとつるんでいてはダメだと距離を置き、自分の居場所を別のところに求めてみたり。というストーリーも繰り返されます。

新しい事業や仕事や恋愛にチャレンジしては、そして失敗・トラブルを繰り返す途中で、それぞれがピンチに陥るときには、相手を助けるために一生懸命に疾走し、やっぱりお互いを大切に思っていることに気が付くシーンも繰り返されます。リコリス・ピザは若い利己的な男女が、過ちを繰り返すことで利他的な気持ちに芽生えていく繰り返しと成長の物語です。最後は二人の疾走の結果、結ばれるラストシーンを迎えますが、果たしてこれがラストシーンなのか。また繰り返しがあるのかもしれない。と思いながら、それでも幸せな気持ちでエンドロールを観ることができるストーリーでした。

リコリス・ピザ ―― 撮影と編集について

リコリス・ピザ ―― 作品のストーリーについて

本作の撮影と編集のモチーフとして感じたのは「繰り返しと右往左往」です。カメラの右から左へ、左から右へ。右往左往と移動する人物描写が特徴的な作品です。そして繰り返し。同じ過ちと行動を繰り返すんだろうなという予想をそのまま、同じカットで撮影された場面がスクリーンに映されて気持ちよくなります。とても印象的なナレーターの二人の疾走シーンは、最後に二人同時に走り出す場面で過去にそれぞれが相手のために走り出す場面をカットインさせる編集で、繰り返しによって幸せなラストへと結実する感動を強くさせてくれます。本当に気持ちがよい作品です。そしてそれらは、冒頭の二人の出会いの場面でゲイリーが「何でも2回繰り返すんだね」とアラナの発言に突っ込みを入れるところで、意識的に予感させる編集もなかなかに爽快です。

本当に良い映画でした。ぜひ、たくさんの人に今観てもらい、2022年の夏を迎えて欲しいと思いました : )

リコリス・ピザ ―― 利己的な空気が横行する今、利他のために走る姿が美しい

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