THE FIRST SLAM DUNK ―― 自分は小さな存在だと気づいてしまった子どもたちに

井上正彦監督・脚本・原作の「THE FIRST SLAM DUNK」を観ました。劇場は池袋、グランドシネマサンシャインのIMAXレーザー/GTシステムです。

スラムダンクの連載終了から26年。週刊少年ジャンプで連載中、ボクは12歳~18歳。グリーンエイジのど真ん中で連載されていたバスケマンガであり、毎週欠かさず読んでいた作品です。もちろん、大興奮して読んでいましたが、残念ながら野球少年であり、遊びでやるバスケもとてもヘタクソだったので、思い入れはあるけれど、次々とバスケ部に入部していく仲間たちを見ながら、バスケが流行りすぎ!とやっかみも感じていた作品です。

そして、久しぶりに。大きなスクリーンで再び触れることになったスラムダンクは、とても良かったです。すごく良かった。本作も背景・ストーリー・撮影と編集の視点で記録をしておきます。

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THE FIRST SLAM DUNK ―― 作品の背景について

マンガ/アニメはいつでも子どもたちに夢と希望を与えるものであると思うし、あって欲しいと思います。今、世界のZ世代/α世代の若者たちが、大人に絶望し、未来を悲観しています。今だからこそ、ポップカルチャーが彼らに夢と希望を与えるメッセージを伝えるべきです。THE FIRST SLAM DUNKでは、体格にめぐまれず、小学校で自分の限界を知り、家族関係でさえも彼の成長を妨げる環境であった少年の成長が描かれます。世界の中のちっぽけな自分を認識し、未来に悲観しても、それでもいつか仲間を得て、成長し、めぐまれた環境にあるライバルと同じステージに立つこともできる。井上雅彦監督が、26年ぶりとなる今の作品で、彼をナラティブに選び、彼の物語を子どもたちと、大人たちにも伝えることを選んだこと、その背景を感じる作品でもありました。

THE FIRST SLAM DUNK ―― 作品のストーリーについて

本作のナラティブは「宮城リョータ」。湘北のポイントガードであり、唯一の2年生スターターです。体は小柄だけど、耳にピアス。サイドを刈り上げたパーマヘア。眠たげは眼差しはこわもてだけれども、女性に弱く、おちゃらけて情けない一面もある。原作のマンガの時から、男女ともに人気があり、読者にモテるキャラクターでした。

しかし、彼には心に重い十字架を背負っていたことが本作では明らかにされます。物語はリョータが小学生、出身地の沖縄のストリートで、中学生の兄ソータと1on1に興じる場面からスタートします。大好きなバスケの目標である兄、父が亡くなり壊れかけた一家のキャプテンとなって引っ張る兄。小学校のリョータは頼もしい兄の背中を見ながら追いかけていましたが、その兄も船の事故で失うことになります。一家をキャプテンとして引っ張ってきた兄を失い、憔悴する母親。大好きなバスケに没頭しようとするも、そこでも自分の限界を知るリョータ。家族は兄の面影が残りすぎる沖縄を逃げるように去り、神奈川へと越していきます。

そんなリョータの物語と並行して、映画では全国大会の大一番。全国の絶対王者「山王工業高校」との一戦が描かれます。リョータは高校ナンバーワンガードであるキャプテンの深津と、相手ガードの心を折る、山王のゾーンディフェンスと相対することになります。試合序盤はリョータのゲームメイクと「三井寿」のスリーポイントが冴え、湘北がリードする展開ではじまります。しかし、その後ギアを入れ替えゾーンディフェンスを徹底する山王の前に、リョータは一切ボールを運べなくなり、山王に26点連続ポイントを許してしまいます。試合を見守る多くのオーディエンスが、これで決まったと思った試合展開です。

一方で神奈川にやってきたリョータも孤独な生活が続いています。バスケチームには属さず、仲間も作らずに、ストリートのリンクで一人バスケットを続けるリョータ。そこで1学年上の中学生だった三井と邂逅するも、つれない態度で接してしまいます。しかし、リョータはその時に三井が放ったスリーポイントシュートに確かに目を奪われ、記憶に残すことになりました。高校に入り湘北高校でバスケットをすることを選択します。バスケットをリスペクトしない3年と、そんな環境においてもチームを強くするために孤軍奮闘し、1年生のリョータに厳しく指導する「赤城」。そんな環境と赤城に対して、リョータはここでも「自分には合わない」と感じています。しかし、3年生の引退試合となった試合の後、ロッカールームで悪態をつく3年に放った赤城の一言「宮城はパスができます」という言葉に心を打たれたリョータは、赤城とともに湘北でバスケを続けることを心に決めます。

山王戦は「安西先生」の言葉によってリバウンドの才能を開花させた「桜木花道」の活躍によって、大きな劣勢を挽回しようとしていました。大学でも3本の指に入るセンターだと評価されている「河田」に押され続ける赤木も、花道や三井の激により本来の自分を取り戻そうとしています。しかし、息を吹き返しつつある湘北に、山王は容赦なきゾーンディフェンスを続けます。大きなリードを許したままの後半のスタートでは、円陣でリョータがチームへの声かけを託されます。「小心者で不安がってばかり」と自認するリョータですが、試合前にマネージャーの「彩子」に不安をもらしたときに掛けられた「それでも偉そうにしていなさい」という言葉を胸に、湘北の司令塔としてメンバーを引っ張ります。後半も容赦なきゾーンディフェンスを敷いてきた山王でしたが、リョータはついにこれまで突破することができなかった鉄壁のディフェンスをドリブルで抜き去るのでした。

赤木の代に変わった湘北でバスケを続けるリョータでしたが、そこで膝を壊しバスケを止め荒れた生活をしていた三井と再開し、目を付けられてしまいます。三井と彼の取り巻きに学校の屋上へと呼び出されたリョータは、彼らに痛めつけられますが、執拗にボスの三井だけを狙うことで、三井にも大けがを負わせます。ボロボロになり家に帰ったリョータは原付バイクにまたがり海を目指して疾走します。そして、そこで転倒事故を起こし入院生活を余儀なくされました。退院後、様々な想いを吹っ切るために兄との想い出がつまった沖縄にひとり訪れるリョータ。兄との隠れ家であった海辺の洞穴で、隠してあったバスケ雑誌と、そして兄の手首にはめられていたリストバンドを見つけ、神奈川に戻ります。傷が癒え、再びバスケ部が活動する体育館へと向かうリョータの横に、並んで体育館に向かう人物がいました。三井です。二人は体育館のドアをくぐり同時に頭を下げます。湘北のスターティングメンバー5人がようやく揃った場面でした。

山王戦は終盤に差し掛かっています。残り時間が少なくなるなか、まだ大きく開く点差を縮めるのは、体力の限界を迎え、ボロボロとなった三井のスリーポイントシュートです。三井の疲労する姿を見てマークが甘くなる山王ですが、リョータからのパスを受け、三井はスリーポイントを放ちます。「静かにしろ。聞こえねぇじゃねえか」スリーポイントシュートのボールがリングを通過するその音を聞き「この音が、、オレをよみがえらせる。何度でも」。三井はスリーポイントを決めるたびによみがえり、山王との点差を縮めていきます。山王のエース「沢北」に負け続ける湘北のエース「流川楓」は、それでも自分のペースを崩さずにクールにある選択をします。あくまでもクールに、これまで選択肢として持っていなかったパスを手札に加えます。選択肢を増やし、山王に迫る湘北。しかし、ギリギリの時間を無駄にしないギリギリの戦いを続ける中で、花道がロストボールを拾うために背中をケガしてしまいます。

そのまま試合を続ける花道ですが、赤木のダンクのこぼれ球をリバウンドを奪ったプレイで限界を迎えます。朦朧とする花道をベンチに下げる安西先生。その間に、赤木はフリースローを2本決め、湘北は5点差へと詰め寄ります。ラスト1分。花道は安西先生に「オレの栄光の時は今なんだ」と訴え、再びコートへ戻ります。次の山王の攻撃を花道が防ぎ、リョータ、流川で速攻へと持ち込む湘北、流川へのラストパスかと思われましたが、リョータはノールックで別の方向にパスを出します。そこには、ボロボロの体で速攻へと走っていた三井がいました。スリーポイントシュートを放つ三井、山王は三井の体に触れてしまいます。スリーポイント+ファールのフリースローを決め、残り49秒。ついに1点差へと迫ります。次の山王の攻撃を止めたのも花道と、そして赤木でした。再び速攻。流川が山王ゴールへと迫ります。流川のシュートは河田が阻みますが、そこにいたのが花道でした。再びボールを拾い流川へとパス。これを決め、残り24秒でついに湘北は逆転を果たします。

しかし、この土壇場の逆転劇にも動じない山王工業。キャプテンガードの深津がボールを収め、湘北と対峙します。そして、土壇場の場面でボールを託すのはやはりエースの沢北です。ボールを受け取った沢北は流川を交わし、ゴールを決めます。残り9秒。再び山王がリードします。この瞬間、山王ゴールへと走り出していたメンバーがいました。花道です。しかし、山王のディフェンスへの切り替えが早く、花道へのパスコースが阻まれます。ボールを持つ赤木に、流川が近づきボールを受け取ります。山王ゴールへとドリブルで迫る流川。そのままシュートに持ち込みますが、山王も戻りが早く2人でブロックに飛びます。そのブロックの間から流川が見たのは、シュート体制のままゴールを見つめ、口元で何かをつぶやく花道でした。流川は花道へのパスを選択します。花道はボールを受け取り、冷静にシュート。放ったボールはリングに触れることなくゴールを通過します。その瞬間に試合終了のブザー。

王者山王を破った湘北ですが、その試合での消耗は激しく、次戦で敗れてしまいます。全国大会を終えたリョータは実家へと帰ります。その途中の海岸で、ひとり海を見つめる母親を見つけます。何も言わず、その隣に腰を掛けるリョータ。母からねぎらいの言葉をかけられ、母に兄の形見である赤いリストバンドを手渡します。

そしてポストクレジットでは、リョータはおそらくNBAのコートに立っています。スターターとしてコートに出ていくリョータ。相手チームもコートに入ってきます。その中に、全国大会で激闘を繰り広げた沢北がいました。体格に恵まれず、家庭にも問題を持ち、挫折も味わい、自分の小ささも知った。そんな少年でも、いつかエリート中のエリートと同じように、世界の最高峰のコートに立つこともできるんだ。スラムダンクが描かずに終わった、夢と希望の続きを最後に示すことで、この映画は終わります。

THE FIRST SLAM DUNK ―― 撮影と編集について

本作のハイライトを映画の冒頭、湘北高校と山王工業高校の登場シーンだと感じる人は多いでしょう。鉛筆の線でひとりひとり登場人物が描かれて姿を現します。そしての人物たちが動き出すことで映画がはじまります。本物の風景のような美しい背景、ゆがみのない線で描かれたキャラクター。日本のアニメが世界に誇るこうした描写こそがアニメの撮影や編集の醍醐味ではあるのですが、本作はそれとはまったく別のアプローチでキャラクターに命を吹き込んでいることがわかる編集です。生々しい線画のキャラクターが大きなスクリーンを動き回る体験は他では経験したことがありませんでした。THE FIRST SLAM DUNKが多くの人の記憶に残る大きな要因となるであろう撮影と編集でした。

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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