新聞記者 ―― ネットフリックスの姿勢がよくわかる、権力と格差を日本でも見直せる作品

ネットフリックスのオリジナルドラマシリーズ「新聞記者」を観ました。ネットフリックスの日本の実写作品で久しぶりの話題作でしょうか。フィクション作品ではありますが、数年前に大きな話題となった森友学園問題の背景をリファレンスして作られた作品です。

権力と組織に利用される人々の気持ちに鬱々としながら、ネットフリックスの北米の作品で語られる民主主義とリベラルな姿勢を本作品にも感じつつ、全6話を一気に観ました。様々な視点から興味深い作品だったので、作品の背景とストーリー、撮影と演出について記録しておきます。

目次 - post contents -

新聞記者 ―― 作品の背景について

新聞記者 ―― 作品のストーリーについて

まず、ネットフリックスは本当にリベラルなメディアであるなぁ。という感想です。数々のオリジナルドキュメンタリーも、一昨年のアカデミー賞候補となったオリジナル映画「マンク」や「シカゴ7裁判」も、権力や組織が虐げられる人たちに不条理を突きつけた過去の歴史を紐解いて、人権や民主主義の立場に立って権利を主張する上質な物語を届けてくれます。きっとネットフリックスの作品を通して、北米の、いや日本を除く多くの国の虐げられる若者たちが心を震わせ、こぶしを握り締めているのだと思います。

そんなリベラルな物語から、日本は随分遠くにいるもんだ。とふと想ったりするときもありましたが、本作はその留飲を下げる作品になるのかもしれません。ディテールに関するいらない批判も含めて、賛否が各所から聞こえてくる作品です。原作があり、映画化もされている作品ではありますが、配信プラットフォームから公開されることで、森友学園問題を自分ごとだと感じずにいた若者たちにも届けばいいなと思いました。

それから「若者よ、新聞を読め」というメッセージもいいですね。ボクはナラティブと言っていますが、新聞を読むことで、世界と日本で起こっていることを自分のナラティブとして若者が語るようになってきたらうれしいです。

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新聞記者 ―― 作品のストーリーについて

新聞記者 ―― 作品の背景について

本作のナレーターは3人と1家族。過去の内閣に絡む詐欺事件を追い続け、本作の主題である栄新学園問題も担当することになる新聞記者の松田。財務省の若手官僚であり、栄新学園問題のきっかけを作ってしまう村上。地方官僚であり、森友学園問題に関する文書改ざんを指示され実行する鈴木とその妻。そして、新聞配達をしながら大学に通い、就職活動を間近に控える若者である亮。

立場は違えど、いずれも権力に翻弄され、傷つき、でも最後にはそれに抗うことを決意する人たちです。本作で印象的だったのは、最大権力者であり、問題を問われるであろう立場の総理と総理夫人が画面に一度も登場してこなかったことです。本作のヒールとして登場する、内閣官僚も広告代理店やメディアの上層部も、総理や内閣を守るために権力を振りかざしているけれど、結局その上の権力に翻弄されて立ち回るだけの立場・存在であることを示唆しているのかもしれません。

そして、本作の一番の見どころは、就活生であり自死に追い込まれた鈴木の甥である亮の視点の変化の物語です。新聞に載るような社会の出来事は、全部上の人たちで決めていることだと思っているので興味が持てない。という若者だった彼が、新聞配達のバイト仲間である繭の指摘や、彼女の発言によってしった記者の松田の振る舞い、そして父親代わりだった鈴木の死によって、天の上にあった社会の出来事を自分のナラティブとして捉えていくようになる変化は、静かだけれど、現実社会においても権力者の振る舞いを正すきっかけになる数少ない道だと感じました。そうした経験を経て、新聞記者を目指すことを決め、松田が働く東都新聞への就職活動において、面接で語る亮の言葉にはぐっとくるものがあります。

亮は、最初は貴社松田の話を聞こうとしなかった鈴木の妻真弓に松田を紹介するサポートをし、松田、亮とともに真弓は真実を突き止めるために立ち上がります。そして、事件のきっかけを作ってしまった村上は、松田と亮の説得と、愛する家族・妻の言葉に導かれて、権力のしがらみを解き放ち、真実を明らかにするための協力をすることを決めます。3人と1家族のナラティブが、物語の最後に絡み合い、国家権力との裁判を迎えるところで本作は終わります。

新聞記者 ―― 撮影と編集について

新聞記者 ―― 撮影と編集について

新聞記者は会話劇中心なので特筆すべき撮影はありません。ただ毎回冒頭に都市の空撮からはじまる演出は、海外の映画を彷彿させるのと、はるか上から群衆を見下ろすような権力をメタファーしているようで印象に残りました。編集においては、4つのナレーターが絡み合う物語の中、各人物が他社のナラティブに影響を与える場面で、日本の映像作品にありがちな細かな説明が加えられたり、韓国作品に目立つ回想シーンが使われたりすることなく、オーディエンスのリテラシーと理解に任せて、余分がないすっきりとした演出で作られている点に好感を持ちました。

2021年の日本のドラマでは「大豆田とわ子と三人の元夫」によい刺激をもらいましたが、2022年のはじまりに観ることができた本作も良い作品だと思います。何度も言いますが、社会の出来事をナラティブに感じ、権力者の決定に疑問を持つ、そんな若者が増えるきっかけになったらいいなと思います。新聞も読みましょう : )

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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