エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス ―― 分断の時代に世代間闘争と家族を描く作品

映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(エブエブ)」を観ました。劇場はグランドシネマサンシャインのIMAXレーザー/GTシステムです。SFマルチバースカンフーアクションを最高のスクリーンで堪能しました。

しかし、本作の見どころは撮影と編集ではありませんでした。2023年度のアカデミー賞で、作品賞・主演女優賞を含む7部門のオスカーを獲得した本作は、Covid-19禍を経て、さらにロシアによるウクライナ侵攻によって分断が進む今だからこそ必要なパースペクティブが込められた作品でした。背景とストーリー、撮影と編集について整理しておきます。

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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス ―― 作品の背景について

昨年末から続く「ブラックパンサー」「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」「アバター」「アントマン&ワスプ」という大作に込められた『家族』というテーマ。本作はその総決算というべきか、家族による分断と、再び本当の家族になる物語が描かれていました。アカデミー賞主演女優賞を獲得した「ミシェル・ヨー」が演じる「エブリン」は、リベラルで多様性を体現する娘との確執に悩み、保守的で家父長制の権化である父親の対応に追われています。

マーケティングの父「フィリップ・コトラー」曰く、かつてないほどに価値観が異なる5つの世代が同時に生きる現代社会の我々の日常に潜んでいる世代間闘争の縮図がエブリンの家族に表象されています。そんな一家がマルチバースを行き交いながら、しがらみに溢れる社会を壊そうとする娘をエブリンは止めようと奔走します。

しかし、マルチバース世界で新たな自分の才能を知りながら身に着け、それらを使って数々の娘との闘争を経て、彼女の声を聴き、エブリンはやがてその多様性を認めることとなります。そして、最後にエブリンの前に立ちはだかるのが、コンサバの権化たる父でした。2020年代、分断の時代においては、保守的な振舞いを改め、多様性を受け入れ、包摂的にふるまうことが正解であること、ハチャメチャなSFマルチバースカンフーアクションのどさくさに紛れて、そんな痛快なメッセージを残してくれた作品でした。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス ―― 作品のストーリーについて

本作のナラティブを担うエブリンは、娘と夫と父親との家族との関係に悩む母でありながら、コインラインドリーを経営し、その経営状況と納税に頭を痛める経営者でもあります。春節の頃を迎え、娘・夫・父のそれぞれの振舞いに不満をためながら、国税局による税金の取り立てにも奔走しています。

そんなエブリンに新たな脅威が迫ります。マルチバースからやってきた夫に「マルチバースの脅威を救えるのは君だけだ」と告げられ、マルチバースのヴィランである「ジョブ・トゥパキ」と戦うことになります。今の世界では無力だったエブリンだけど、マルチバースでは多彩な才能を持つ女性でした。その他のマルチバース世界に飛び、各世界の才能をインストールして実の娘であったジョブ・トゥパキと戦う力を得るエブリンですが、マルチバースにジャンプする方法は奇天烈な行動をとること。変態的なふるまいをして、マルチバースの自分が持っている溢れる才能を得ながら、多様性を受け入れジョブ・トゥパキと対するエブリン。

マルチバースの自分と向きあい、戦いを通して娘と向き合うエブリンはやがて大きな虚無感に襲われます。そして、娘であるジョブ・トゥパキも同じ想いを抱いていました。彼女はすべてを捨てて、エブリシング・ベーグルと呼ばれるブラックホールへ入り消えてしまおうとエブリンをいざないます。娘とともに歩みを進めるエブリンでしたが、それを止めたのは夫のウェイモンドでした。ウェイモンドは常にどこでも優しく包摂的であろうとふるまってきた人物です。捨て身の母娘を止めたのは夫であり父であるウェイモンドの包摂性でした。

夫の戦い方を理解したエブリンは、再び戦いに臨みます。ブラックホールへと向かう娘を止めようとするエブリンの前に立ちふさがったのは、家父長制の権化である父「ゴンゴン」でした。過去に才能がない娘として見捨てられたゴンゴンに対し、エブリンはこれまで遠慮していた想いをぶつけ、多様性と包摂性を持って打ち倒します。まるでマルチバースのように異なる5世代が同居する世界において、時計を前に進めることができない保守的でトキシックな人々に対し、ダイバーシティ&インクルージョンのふるまいで立ち向かおうと、狭間で揺れる世代であったエブリンは確信し、家族との絆を取り戻して本作は終幕となります。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス ―― 撮影と編集について

SFマルチバースカンフーアクション。何度でも文字にして言葉に出したくなる小気味よいキャッチフレーズですが、エブエブにおいてはカンフーアクションの撮影と編集。そしてSFマルチバースアクションの撮影と編集の両方を楽しむことができました。カメラの位置をフィックスし、流れるような動作と留めのポーズで魅せるカンフーアクションの美しさを久しぶりに体験しました。かと思うと、急にカメラが動き出しエブリンとともにマルチバースにジャンプするサイケデリックなアクションが続いたり。アクションシーンも多様性が溢れていたことが印象的です。

それでもやっぱり、本作の見どころは「家族」をテーマとした物語です。改めて書きますが、ハチャメチャな展開の中に、今の時代はこれが正解。という言いきりを隠して伝える。メチャクチャで分かりづらかったという評価もあるようですが、そんな隠れた痛快なメッセージを受け取ることができれば、「ジャンプ」できる作品だと思いました : )

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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