夏休みに一日自由な時間をとり、遅ればせながら、なんとかギリギリ駆け込みで「ブラック・ウィドウ」を映画館で観てきました。こんなに映画館で観ることに苦労をするのは、COVID-19禍であるということに加えて、ディズニーと日本映画興行団体との確執によるところが大きいです。
ディズニープラスでの放映のタイミングを巡るこの確執によって、MCU作品のようなブロックバスター映画であっても、TOHOシネマズやMOVIXといった大手シネコンでは劇場放映されていません。この問題は、ボクのように東京の東側で生活している人たちにほど大きな問題だと実感しています。東京東部にある映画館ってほぼTOHOシネマズかMOVIXじゃないですか?今回は池袋の「シネマサンシャイン」まで遠征して、ブラック・ウィドウを観ることになりました。
ちょっと苦労しましたが、その価値は十分ある映画だったので、背景やストーリー、撮影と演出についてまとめておきます。
ブラック・ウィドウ ―― 作品の背景について
2010年代後半から意識的に女性活躍を描いてきたMCU作品ですが、本作がその最高峰だったと感じます。ブラック・ウィドウこと「ナターシャ」と、妹の「エレーナ」。そして母である「メリーナ」。偽りの母娘ではあるけれど、本当の家族のように皮肉とユーモアを交えながら連携し、目的に向けて共闘します。そんな彼女たちの目的は虐げられている女性の解放です。
エンドゲームとファー・フロム・ホームで、インフィニティサーガの円環を閉じ、宇宙の平和という壮大な物語を終えたMCUが次に選んだテーマです。そこでは、一人一人の顔が見える「ウィドウ」と呼ばれる女性たちを開放するために闘いました。宇宙という大きな単位から、近くにいる、顔が見える女性のために。同じように命がけで戦う彼女たちの姿がマザーテレサに重なりました。
ブラック・ウィドウ ―― 作品のストーリーについて
本作の舞台はMCUの「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の直後という時系列。国連が下したソコヴィア協定への賛否が分かれ、アベンジャーズが分断してしまったタイミングでの物語です。ナターシャはソコヴィア協定に反対を突きつけ、指名手配犯として追われる立場にあります。ファミリーだと信じてきたアベンジャーズの仲間とのデカップリングが目の前にある中、以前別れてしまったかつての家族と出会い共闘するという、MCUの長大なストーリーの中にピタリとハマる秀逸なストーリーです。
そして、そこではインフィニティサーガでは詳細に描かれなかったブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフの出自が語られます。ロシアのスパイ組織「レッドルーム」で育ったナターシャ。その組織では、誘拐した女子をスパイとして育てるための教育と洗脳が行われていました。S.H.I.E.L.D.に認められ、一人レッドルームを抜け出すことができたナターシャですが、彼女の前にかつて潜入ミッションで家族として過ごした妹のエレーナが現れます。
そして、エレーナによってレッドルームの本当の姿を知り、虐げられる女性の解放を目指してレッドルームとの闘いに臨みます。その過程で、かつて父として一緒に暮らした「レッド・ガーディアン/アレクセイ・ショスタコフ」と、同じく母だったメリーナと再会します。不遇の環境にあるエレーナ、アレクセイとは違い、今だ組織に重用されているメリーナは組織側に加担するかのような行動をとりましたが、それもフェイクであり、4人の協力により、謎とされていたレッドルームの拠点にたどり着き、巨悪の長である「ドレイコフ」へと迫るナターシャ。
しかし、女性たちの洗脳に長けたドレイコフは、自分のフェロモンを嗅いだ女性はドレイコフへの攻撃ができないというチート能力を発揮。ボク的な本作のカタルシスはこの場面ですかね。そのホルモン作用を無効化するために、ナターシャは目の前にあったデスクに自らの鼻を打ち付け鼻の骨を砕きます。躊躇なく自分の体を犠牲にするナターシャの行動と表情がめっちゃかっちょいい。
そんな戦闘を経て、ウィドウたちの解放を成し遂げたかつて家族だった4人。その感傷もつかの間、指名手配として追われていたナターシャに追跡の手が及びます。そこで、ナターシャはもう一つの家族であるベンジャーズに戻ると告げ。家族と別れ行動します。そこからエンドロールを挟み、MCU得意の次の展開に続くポストクレジットシーンが。そこではエレーナがナターシャの墓石に花を供えています。エンドゲームでナターシャが亡くなった事実は変わらないことがわかります。
アベンジャーズを振り返ると、もう一つの家族だった仲間に執着し、ファナックなほどに過剰に働き、そしてアベンジャーズのために自らの命を捧げたナターシャの背景と本作がつながります。ナターシャの執着が異様なほどだったからこそ、本作とのつながりに感動します。そして、墓石の前に立つエレーナにはナターシャの理解者であった「ホークアイ」の写真を提示し、姉の死に大きく関わった次のターゲットだと告げる夫人が現れ。ナターシャ亡き後のブラック・ウィドウをエレーナが継承し、アベンジャーズに関わっていくことが分かるポストクレジットシーンをもって、映画ブラック・ウィドウが終わります。
ブラック・ウィドウ ―― 撮影と編集について
ヘリコプターを使った戦闘シーン、カーチェイス、空中に浮かぶレッドルームの落下中の戦闘シーンと、アクションシーンはさすがのMCUでした。ブラック・ウィドウを象徴するのは「落下」だと思っていて、だからこそあの片手・片膝をついた体制が彼女のキメのポーズであるのだと。落下中の上からの視点と、着地の下からの視点。ブラック・ウィドウを彼女らしく映すカメラの配置の妙を戦闘シーンから感じました。しかし、ボクにとってのカタルシスは前述の鼻折りの場面で。どんな戦闘においてもクールなブラック・ウィドウ/ナターシャが最高なんですね。
それから冒頭の1995年の幼少期のエピソードもとてもよかったです。髪をブルーに染めた幼少のナターシャの配役もルックスもとても良かったです。もちろん、姉とのコントラストがバッチリだった妹役のフローレンス・ピューの配役も。そして音楽。冒頭のシーンでカーラジオから流れる「アメリカン・パイ」。仮初の家族の終わりを表象するとともに、再会の時にアレクセイがエレーナに歌い、過去を懐かしみ、再び家族となるきっかけを作った演出も最高でした。
久しぶりのアベンジャーズ映画でしたが、次に続く、「シャンチー」「エターナルズ」と映画館で観られることを楽しみにしています : )
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