細田守監督作品、アニメ映画の「竜とそばかすの姫」を映画館で観てきました。3年毎にきまって夏に公開される、サマーアニメ映画の定番となった細田守監督の6作目のオリジナル長編映画です。ボクは決して熱心なフォロアーではありませんが、今まで以下の作品は観てきました。
- サマーウォーズ
- おおかみこどもの雨と雪
- バケモノの子
- 未来のミライ
いずれも、主人公や物語のナレーターに近い世代、境遇の人はグっと共感できるポイントや、シェアできるイシューが細やかに織り込まれているんだろうな。と想って観ていました。同時にいずれも、ちょっと自分の属性や視点からはずれている内容でもありました。本作、竜とそばかすの姫でナラティブを語るのは、自分の心をオープンにできない女子高生で。そんな境遇は、中学生である自分の娘を鏡として見ることができ、これまでの作品よりは一歩近寄って自分事として観ることができたかな。と思います。
そして、本作の一番の興味であり、映画館で観るべき理由は中村佳穂の歌声です。緊急事態宣言下の映画館で観た、竜とそばかすの姫の感想を残しておきます。
竜とそばかすの姫 ―― 作品の背景について
スクールカースト、格差社会、児童虐待など、日本にも存在する格差の問題を作品に織り込み、そしてそれらの格差を引き起こす要因となる、SNSやフェイクニュース、自分の地位やポジションを守ることにファナティックになるがゆえに、ビジランテ(自警団)になってしまう人たちも背景として描かれています。社会課題に翻弄される人たちに加えて、その課題を生み出す原因となる構造まで、多重のレイヤーが背景として描かれています。
学校であり、家庭内であり。そうした小さなコミュニティの中で格差を感じるティーンの気持ちと、そんな辛さを感じる環境において、SNSの世界に入り込むことで、なかなか壊すことができない現実にある壁を忘れて、乗り越える感覚を味わえる。そんな登場人物たちを見ていると、自分の中学生の娘が重なって見えてきたりもします。
竜とそばかすの姫 ―― 作品のストーリーについて
竜とそばかすの姫のストーリーは、現実社会と、世界50億人がプレイする仮想空間アプリケーション「U」の中の世界を行き来しながら進行します。ナラティブを語るのは、高知県の自然豊かな田舎に住む女子高生の「すず」。現実社会の彼女は、幼い頃に母親を亡くしてしまったことを心の傷に持ち、内省的になり自分を出せずに高校生活を送っています。そんなすずを心配し、気を配ってくれる数少ない友人のひとり「弘香」によって、「U」の世界へと導かれたすず。
「U」の中では、すずは自らを投影したアバター「ベル」として、母親を亡くしてから唄えなくなった歌を唄うことができました。ベルが唄う美しい歌は「U」の世界の人々を魅了し、多くのフォロアーと注目を集めることとなります。現実社会の冴えない自分とのギャップに戸惑いつつも、「U」の世界で活躍を続けるベル。しかし、人々の注目を集めるベルのステージに、「U」の世界で悪名が轟く「竜」が現れ、唄うことを邪魔されてしまいます。
そんなアクシデントがきっかけで、竜の存在を気に掛けるようになったすずと弘香は「U」の中で竜の正体を追いはじめます。竜を追うことで、「U」世界の竜に対する評判と異なる一面に気が付きはじめるベル。竜が持つ影を解きほぐしたいと距離を近めるベルの前に、「U」の世界の秩序を守ろうとするビジランテ組織「ジャスティス」が現れ、竜を攻撃します。彼らから逃げる竜は、ベルの前からも姿を消してしまいます。
「U」の世界のそんな出来事に悶々とするすずの現実社会では、幼馴染で密かに好意を寄せる「忍」を巡る同級生の嫉妬ややっかみ。スクールカーストの上位にいる「瑠果」の言動に振り回されて、現実社会でもうまく行かない想いに気持ちを悩まされてしまいます。しかし、そうしたモヤモヤとした気持ちが解消されるのは、現実社会の方が先でした。瑠果や忍との会話を通して、彼・彼女の本当の気持ちを知るすず。そして、そうして心を通わせた友人に背中を押されて、「U」の世界の竜との問題に対しても前向きに行動をはじめます。
竜の言動から現実社会の竜の危機を感じるメッセージを受け取るベル。竜の危機を救うために、現実社会の彼を探しはじめます。現実社会の竜は、父親から児童虐待を受ける東京に住む少年でした。竜の正体を掴み、少年の危機を救おうとするすず。しかし、人間を信じることができなくなっている少年は、すずの好意を拒絶してしまいます。少年に誠意を伝えたいすずは、「U」の中で、ベルではなく、すずとして姿を晒し、少年にメッセージを送ります。そして、少年の危機を救うため高知から東京へと向かうすず。東京で少年と彼の父親と対峙をし、強い気持ちで少年を救うのでした。
現実社会の問題も、「U」の中での問題も、自らの行動によって解決をしたすずは、現実社会のすずとしても、以前好きだった歌を唄えるようになるのでした。
竜とそばかすの姫 ―― 撮影と編集について
なによりも、中村佳穂を声優に抜擢し、作品の中で十分に唄わせたことが、この作品の撮影と編集の一番の功績でしょう。そして、それが緊急事態宣言下に公開されたこと。歌声をライブで聴くことが難しくなって1年半。そうした環境の中で、映画館で聴く音楽はもっとも大音響でライブに近い感覚で体験できる方法です。ストーリーも、細田守監督の特長でもある日本の夏の風景を美しく描く作画にも、感動できる作品ではありましたが、一番は中村佳穂の歌声でした。
初夏に観たミュージカル映画「イン・ザ・ハイツ」の歌声と、この竜とそばかすの姫における中村佳穂の歌声が、2021年夏のボクの数少ないライブ体験です。映画館の音響で歌を聴くという楽しみを知るこができた夏の映画でした : )
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