人新世の「資本論」―― ブランドとそうでないモノの「使用価値」は変わらないのか

マーケティングに関わる仕事を20年続けています。マーケティングでは、永い間「人々の生活をより豊かにする」ことを考え、実行してきました。しかし、昨今では人々の豊かさと同等に、世界や地球全体に関わる課題の解決を目指す必要を感じています。つまり、人も環境も良い状態で持続可能(サスティナブル)であることが求められています。

それまでは、人々の欲求(ウォンツ)に耳を傾け、気を配りながら商品開発やプロモーションのお手伝いをしてきましたが、それに加えて、社会課題への目配せ、配慮を行うようになりました。よりパーソナルなウォンツの理解を追求してきましたが、今は全人類で自分事として語るべき「時代のナラティブ」は何なのかを考えています。その大きな道標が、国連で定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」だと思って理解を深めてきました。

しかし、この本『人新世の「資本論」』では、そのSDGsを「現代版大衆のアヘンだ」と言いのけます。時代のナラティブへの理解を深めるために、その背景と、そこで大きなリファレンスとされている経済思想「マルクス思想」を理解しておかないとと感じ、少し時間を割いて、このブログでまとめておきます。

本書に関するブログは「人新世の「資本論」」のタグでまとめています。
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人新世の「資本論」―― 捨てたくない、所有し続けたいと思わせるのはマーケティングのチカラ

希少性という観点から見れば、ブランド化は「相対的希少性」を作り出すといってもいい。差異化することで、他人よりも高い社会的ステータスを得ようとするのである。例えば、みんながフェラーリやロレックスを持っていたら、スズキの軽自動車やカシオの時計と変わらなくなってしまう。フェラーリの社会的ステータスは、他人が持っていないという希少性にすぎないのだ。逆にいえば、時計としての「使用価値」は、ロレックスもカシオもまったく変わらないということである。

ここで例に上がる、フェラーリやロレックスというハイブランドではないけど、オールデンやパラブーツ、バブアー、パタゴニアなどのブランドファンであるんで、耳が痛い内容です。確かに希少性に惹かれることは間違いないです。ただし、そうしたブランドへの愛着は、モノを大切にする。捨てない。それから、他人が使ったものであっても、その次に所有してもいいと思えるサーキュラーエコノミーや、サスティナブルな消費につながるメリットもあることを実感しています。さらに、良いモノ(ブランドに限りませんが)は、やっぱり丈夫で永く使用することができます。「使用価値」は変わらなくない。そうとも思っています。

この無意味なブランド化や広告にかかるコストはとてつもなく大きい。マーケティング産業は、食料とエネルギーに次いで世界第三の産業になっている。商品価格に占めるパッケージングの費用は一〇~四〇%といわれており、化粧品の場合、商品そのものを作るよりも、三倍もの費用をかけている場合もあるという。そして、魅力的なパッケージ・デザインのために、大量のプラスチックが使い捨てられる。だが、商品そのものの「使用価値」は、結局、なにも変わらないのである。

パッケージ、容器の環境破壊問題はその通りだと思います。だから「Loop」のような取り組みがはじまったときには、感動と興奮を感じました。捨てるのをガマンするのではなく、捨てたくない、と思わせるほどのかっこいいパッケージを創り、普及させる仕組みを構築するのはマーケティングのチカラだと思います。キシリトールガムのパッケージなどは本当に素敵なので、ぜひ見て欲しいです。また、広告には批判的な視点を持っていますが、特別な広告を打たなくても、支持を集め、所有したいと思わせる、前述のオールデンやバブアーのようなブランド・商品づくりもマーケティングのチカラです。

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原子力や火力発電とは異なり、太陽光や風力は排他的所有と馴染まないということだ。太陽光や風力は、ラディカルな潤沢さをもつ。実際、無限で、無償なのだ。それゆえ、石油やウランとは異なり、どこでも、誰でも、比較的廉価に発電を開始・管理することができる。第五章で紹介したゴルツの分類に従えば、再生可能エネルギーは、「開放的技術」なのである。

一方で希少性がないのでブランド化しづらい、太陽光や風力による発電についてです。開放的技術、いい言葉ですね。ボクは太陽光、風力発電による再生可能エネルギーの普及には賛成派です。先日は、10年後の2030年には太陽光の発電コストが原子力を下回るという試算を経産省が発表していました。本論とは逸れますが、風力発電の風車は見た目も好きです。大きな風車がゆっくりと回り、大きな電力を生み出す様は迫力とロマンがあります。

日本経済新聞
太陽光、主力電源へ壁厚く 「原子力より割安」経産省が試算 送電網接続費など課題 - 日本経済新聞 2030年時点の太陽光の発電コストが原子力を下回り最安になるとの試算により、太陽光「主力電源」化が本格化する。ただ用地捻出や送電網への接続費、バックアップ電源確保な...

資本主義にとってのジレンマが生じる。希少性を作り出すことの困難さは、儲けが出ないことを意味するからだ。そのことが、市場経済のもとでは、再生可能エネルギーへの企業参加が遅々として進まないことの原因になってしまうのである。ここには、「資本の希少性」と「コモンの潤沢さ」の対立がある。

だから普及しない。という論調でしょうか。この1年で随分と空気感や行動が変わったこともあると思いますが、政府・企業のチカラも込められて、再生可能エネルギーの普及は進んでいるし、これからも進むとボクは考えています。筆者の言う、コモンズとしての在り方と折り合いを付けながら、政府・企業は再生可能エネルギーの普及を推進し、生活者もそれを後押しするでしょう。

今年の梅雨から夏にかけても、気候変動の恐怖を実感する災害が起きています。資本主義か共産主義かの議論は、日本人のナラティブにはならないけど、気候変動に対するアクティビズムは人々のナラティブになってきていると感じます。何を自分ごととして取り組むのか、その視点が定まってくれば、ラディカルな変化を期待せずとも、良い方向に向かっていくと。今はそう信じたいと思います : )

人新世の「資本論」―― ブランドとそうでないモノの「使用価値」は変わらないのか

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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