マーケティングに関わる仕事を20年続けています。マーケティングでは、永い間「人々の生活をより豊かにする」ことを考え、実行してきました。しかし、昨今では人々の豊かさと同等に、世界や地球全体に関わる課題の解決を目指す必要を感じています。つまり、人も環境も良い状態で持続可能(サスティナブル)であることが求められています。
それまでは、人々の欲求(ウォンツ)に耳を傾け、気を配りながら商品開発やプロモーションのお手伝いをしてきましたが、それに加えて、社会課題への目配せ、配慮を行うようになりました。よりパーソナルなウォンツの理解を追求してきましたが、今は全人類で自分事として語るべき「時代のナラティブ」は何なのかを考えています。その大きな道標が、国連で定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」だと思って理解を深めてきました。
しかし、この本『人新世の「資本論」』では、そのSDGsを「現代版大衆のアヘンだ」と言いのけます。時代のナラティブへの理解を深めるために、その背景と、そこで大きなリファレンスとされている経済思想「マルクス思想」を理解しておかないとと感じ、少し時間を割いて、このブログでまとめておきます。
人新世の「資本論」―― 気候変動問題への取り組みを通じて、資本主義システムを乗り越える
惨事便乗型資本主義は、環境危機を商機に変えて、今以上の富を彼らにもたらす。国家はこうした特権階級の利害関心を守ろうとし、その秩序を脅かす環境弱者・難民を厳しく取り締まろうとする。これが、第一の未来、「気候ファシズム」である。
惨事便乗型資本主義は、カナダのジャーナリスト「ナオミ・クライン」が、「ショック・ドクトリン」と言い警鐘を鳴らす、世界が大きなショックを受けている間に、資本主義の手続きを省いて、新たなルールが決められてしまう状況のことを指します。昨年から続く、COVID-19禍の政策や財政出動も、図らずとも富裕層の富を増大させ、格差を拡大させる結果となっています。
日本では、「脱成長 経済成長」という人類の生存をめぐる対立は、経済的に恵まれた団塊世代と困窮する氷河期世代との対立へと矮小化されてしまった。そして、脱成長は「緊縮」政策と結びつけられていったのだった。一方、そのような団塊世代の脱成長論へのアンチテーゼとして、リフレ派やMMT(現代貨幣理論) が世界で最先端の「反緊縮」思想として紹介され、就職氷河期世代の支持を集めるようになっていった。
本書のテーマである「脱成長」ですが、確かに一見すると「緊縮政策」と勘違いしてしまうような響きがあります。しかし、ここまで読み進める中の理解では、脱成長は財政出動を否定するものではありません。むしろ、積極的に政府による財政出動で、公共の益を整備することを勧めています。上記は日本における政策への言及ですが、日常生活ではこうした世代間闘争を感じる場面はボクにはありません。一方で、以下の海外、アメリカにおける世代間の闘争はその空気感を感じることができます。
海外で、サンダースらの「左派ポピュリズム」を支えたのは、日本の反緊縮を唱えている人々よりもさらに若いミレニアル世代やZ世代である。そして、彼らのはっきりとした特徴は、環境意識が極めて高く、資本主義に批判的だということだ。「ジェネレーション・レフト」と呼ばれるほどである。実際、アメリカのZ世代の半分以上が資本主義よりも社会主義に肯定的な見方を抱いている。
未来の社会のために声をあげる世界のZ世代の、特に女性の声が大きく響きます。グレタ・トゥーンベリ、エマ・ゴンザレス、周庭(アグネス・チョウ)、そしてポップスターですがビリー・アイリッシュ。彼女たちの声からは、現状への危機感がひしひしと伝わってきます。そして、改めてその声を解釈すると、それはマルクス主義や脱成長の訴えにつながるものだと理解ができてきます。
どんどん経済成長をして、人々に雇用を生み出し、再分配しようという論法をサンダースやコービンの「反緊縮」は採用しなかった。むしろ、反資本主義を打ち出したのだ。単なる経済成長路線を掲げてしまったら、ビジネス重視の「緑の経済成長」を謳うトーマス・フリードマンらに媚を売っているとして、ミレニアルならびにZ世代からの支持を瞬く間に失っていただろう。この気候変動と資本主義に対する姿勢の違いは、脱成長をめぐる日本と欧米の言説状況にも影響している。欧米においては、気候変動問題への取り組みを通じて、資本主義システムを乗り越えようとする要求が出てきている。そのなかで、脱成長が新世代の理論として台頭するようになっているのである。
なるほど、気候ケインズ主義がグリーン・ニューディールによって気候変動をさらなる経済成長のきっかけとしようとしているのに対し、新マルクス主義は脱成長によって気候変動を資本主義システムを更新するきっかけにしようとしています。そして、Z世代の若者にとってよりリアリティがあるのが後者、新マルクス主義なのだと感じます。このあたりの行動や思惑が確認できると、両者の歩み寄りの可能性も見えてきます。特に今、アメリカのバイデン政権は、左派ポピュリズムに目配せをしつつ、積極的な財政出動と、それらの政策による格差の是正に打って出ていると感じています。
どのような歩み寄り方があり得るのか、そんな視点を新たに持って、本書を読み進めます : )
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