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2010s(トゥエンティテンズ):第4章~ネットフリックス至上主義/市場主義|ブレイキング・バッドで感じる2010年代半ばのムード

2010年代のポップカルチャーのメインストリームや、そこで起きた変化を解説する本「2010s」。1周目でチェックした部分を中心に、2周目を読み進めながら感想を記録していきます。

2010sの第4章は「音楽と映画はいつの時代もポップ・カルチャーの二本柱だったわけですが、2010年代以降はテレビシリーズが三本目の柱になった。」という宇野維正さんのテーゼからはじまります。長大なストーリーを何年もかけて、複数のシリーズを経て語っていくテレビシリーズは、まさに映像ストリーミング・サービスが一般化した2010年代の産物だと思います。

2010年代のポップ・カルチャーに遅れをとってしまったボクでも、「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ウォーキングデッド」など、長大なストーリーをストリーミング・サービスを使って後から追いかけることができました。そして、テレビシリーズの魅力にはまってしまいました。

映画というフォーマットにあった制約を取っ払って、濃厚で細やかなストーリーと複雑なリファレンスを余すところなく注ぎ込んだドラマシリーズは長く見続けるごとに驚きと発見を多く感じることができる。今は、ボクの中でも映画や音楽よりもホットにコンテンツに触れているパッケージです。

第4章のスタートは、そうしたテレビシリーズの2010年代の口火を切った作品として「ブレイキング・バッド(2008年~2013年)」について、田中宗一郎(タナソー)さんと宇野さんの絶賛からはじまります。

ピークTV時代と「ブレイキング・バッド」

田中 第1章での「2008年から2010年代が始まった」という仮説に添うなら、『ブレイキング・バッド』をひとつの起点だと位置付ける、そんな視点はどうですか?

宇野 まったく問題ないと思います。もちろん日常的な仕事にも関係しているので、それまでも映画と並行して、国内のBS放送やCS放送で主要な海外のテレビシリーズは追ってきましたけど、個人的にも2010年代的なクロスオーバーなカルチャー受容のすべてのスイッチが入ったのが、『ブレイキング・バッド』への興奮からでした。

田中 このドラマの背景にあるのは、オバマ・ケアでしょ?

宇野 バラク・オバマが大統領選挙当時から公約に掲げていた医療保険制度改革ですよね。今のところ健康保険制度が完備されている日本だとちょっと想像しにくいですけど、アメリカでは『ブレイキング・バッド』の主人公みたいな高学歴の白人でさえ、癌に侵されてしまっただけで生活が破綻してしまうほどの医療の高額化が問題になっていた。そして、トランプが大統領に就任してから最初にやった仕事がオバマ・ケアの見直しだったという。

田中 つまり、「クリスタルメス」という高純度の覚醒剤にまつわる裏社会でのドラッグ・ディールを巡る徹底したエンターテインメント作品でありながら、その設定の背景には明確な社会意識があった。でも、社会的、政治的なメッセージを強烈に打ち出したプロパガンダ作品にはなっていない。その絶妙なニュアンスですよね。

宇野 2010年代というディケイドは、政治性を強く打ち出した作品が勢いを持っていた時代だったわけですが、むしろそうした社会性や政治性を前景化させないエンターテインメント作品に仕上がっていることがポイントということですか?

最初に、ブレイキング・バッドはまだ観ていないのですが、必ず観ます。この2人、タナソーさんと宇野さんのポップ・カルチャーの良質な作品に透けてみえる社会課題へのメッセージを見つけるという視点がボクは大好きで、そんな視点を持って作品を観るようになって、楽しさが数倍になったと感じます。ブレイキング・バッドがリファレンスする社会課題は米国の医療保険制度だそうで。2010年代のポップ・カルチャーに多くまぶされていた、気候変動や環境問題とはまた違い、生々しい課題であることに興味を感じます。あとは、2人の絶賛ですね。これは観ないといけません。

田中 『ブレイキング・バッド』を観始めた当時、これはブルース・スプリングスティーン『The River』の現代版だな、と思ったんですよ。

宇野 『The River』のタイトルトラックも、ガールフレンドが妊娠して、家族が一人増えただけで経済的に破綻してしまう田舎町に暮らす貧しい労働階級のカップルについての歌ですもんね。

田中 表向きはラブソングだし、アルバム全体としてもパーティアルバムでもあるんだけど、そこでの乱痴気騒ぎにもペーソスがべっとりと張り付いていて、当時の社会状況に対する不安が滲み出てる。『The River』は、ちょうど1980年にアメリカの政権が民主党のカーターから共和党のレーガンへと移っていく時代のムードを切り取った作品でもあって、つまり、民主党的な倫理や建前に疲れきったアメリカ社会が、手っ取り早い解決を求めた時代。それって2010年代半ばの空気にすごく似通ってるんです。

なるほど、とてもハイコンテクストな視点です。過去の映画を紐解いて、今の作品とつなげていくと、その時代と今の時代のムードもつなげて見ることができる。2010年代のUSは、倫理と建前に疲れ切って共和党のトランプを選ぶという選択をしましたが、それがブレイキング・バッドという作品の空気感からも読むことができるなんて。そんなハイコンテクストな視点を持つこと、持ちながら観ることは難しいけれど、今の人々の空気感や少し先の未来のことを考えための道標になると思っています。

ブレイキング・バッドももちろん観ますが、たった今世界で共感を得ている作品もちゃんとフォローして、今とちょっと先の空気を考えるきっかけにしてみます : )

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