ハリウッド映画の終焉 ―― ちゃんと行動しよう。聞くからはじめよう。

いつもボクに数多くの視点と気づきと、感動や驚きを与えてくれる映画。そして、それは大作であればあるほど、世界中の多くの人が目にして心に残し、社会の空気を変えていくものであると持っています。その頂点がハリウッド映画です。

しかし、それが終焉を迎えると言われています。そんな刺激的なオピニオンを投げ込んでくるのは、映画評論家の「宇野維正さん」です。数々ある映画やドラマを選ぶ中で、ボクが何を見ようかと選ぶ道標としている人でもあります。社会と映画、そして映画の表側と裏側をひとつなぎにして語る、宇野さんの刺激的な視点で見たハリウッド映画の過去と今とこれからについて、軽快に記された新書「ハリウッド映画の終焉」について、何回かに分けて記録と気づきを残していきます。

今回は本著の第1章。MeTooとキャンセルカルチャーの余波についてです。本章では以下の映画作品をリファレンスしながらテーマについて語られています。

  • プロミシング・ヤング・ウーマン
  • ラスト・ナイト・イン・ソーホー
  • パワー・オブ・ザ・ドッグ
  • カモン カモン

私は「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」だけ観ていなかったので、本書を読んだ後に配信で観ました。と、ブログを書いていますが、ちょうど今、ジャニーズの件の問題が世間を賑わせています。そうでなくても、無邪気に語ることができないテーマでもあります。改めて、本書に書かれていることを引用しながら考えてみたいと思います。

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ハリウッド映画の終焉 ―― MeTooとキャンセルカルチャーの余波

性暴力シーンがないのは、男性の観客に対していかなる意味においてもポルノ的な消費を許さないという強い意志の表れだろうし、同種の経験をしたことがある女性の観客に対してフラッシュバックを起こさせないための配慮でもあるだろう。そして、直接的な言葉を使っていないのは、その言葉によって観客に「自分とは無関係である」と、作品と自分を切り離させないためでもあるはずだ。主人公キャシーの復讐は、性暴力の直接的な加害者たちだけでなく、やがて女性を含むその傍観者たち( 観客たち) にも向かってくる。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」のストーリーテリングに関する言及です。本作は性暴力を傍観することは罪であることを強烈に打ち付けてくる作品でした。ちょうど今、日本でも傍観者の罪について各所で議論なのか、言いたい放題なのかが続いています。傍観者が被害者と言われる現象さえおきています。そこに対する答えはボクは持っておらず、それぞれにグラデーションがあるのだと思いますが、本作では少なからず、直接的な被害者でも加害者でもない、将来有望な女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)である「キャシー」は、とてもつらい人生を歩み、悲しい結末を迎えることになります。今のリアルを見ていても思います。これだけ多くの人を否応なく呑み込んでいく、性暴力は絶対に許してはならない。ここは確かなのだと思います。

近年、映画批評や映画関連の記事などで頻繁に使用されるようになった「トキシック・マスキュリニティ」という言葉。『ジョーカー』、『アイリッシュマン』、『マリッジ・ストーリー』、『アド・アストラ』などの作品を筆頭に、男性主人公の「男らしくあらねばならない」という社会的、あるいは家庭内の呪縛に起因する負の側面を描いた作品が相次いで公開された2019年には、「その年の映画界を表す言葉」として大手映画メディアがまるで流行語のようにこの言葉を 喧伝 するようになった。その背景には、大統領選がおこなわれる年ならではのリベラル・メディアにおける反トランプ・キャンペーンという意味合いもあったわけだが、そんなアメリカの内政事情とは関係がない日本のメディア上でも、「有害な男らしさ」という訳語を当てはめて、その論調をそのまま流用したような文章を目にする機会が増えた。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に関しても、その言葉を使用していない作品評を探すのが難しいくらいだった。

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、男らしくあらねばならない。という呪縛に囚われた「フィル」によって傷つけられる人たちと、それからフィル本人が負う傷を描いた作品です。この構図は現実社会で憤りを感じるトキシック・マスキュリニティに対して、一歩引いた視点で、冷静に考えなくてはならないというパースペクティブを示唆してくれました。例えば、どこかの社長。日常的にマチズモな言動を繰り返し、それに対して指摘を入れると烈火のごとく怒りだす。有害な男性性の象徴だなと思っていましたが、もしかしたら本人もロールとしての呪縛により、そんな言動をしてしまうのかもしれない。トキシックになってしまう原因を、少し柔らかく聞く耳を持たないといけないのかもしれない。この言葉がある種の男性を苦しめているのかもしれない。そんな想像を膨らませることができた作品です。「Keep Cool But Care」、トマス・ピンチョンの作品に出てくる言葉ですが、傷つきやすい社会です。その全体にケアの視点を持たなくてはいけないと感じます。

『ジョーカー』の主人公アーサーは典型的な「コミュ障」だった。自分の話を聞かせることよりも観客とのコミュニケーションこそが肝となるスタンドアップ・コメディアンを志しながらも、アーサーは職場の同僚とも母親とも 想いを寄せる異性とも、ほとんどまともにコミュニケーションをとることができず、自分勝手な妄想を膨らませ、その必然的な帰結として凶行に走った。対して、『カモン カモン』の主人公ジョニーは人の話を聞くことそのものを職業としていて、そこで相手を尊重しながらじっくり対話をして、それを録音してラジオの電波を通して発信していく。

ボクの大好きな俳優「ホアキン・フェニックス」が主演する「カモン カモン」です。彼こそ放っておけない、ケアしたくなるようなナラティブを演じることに長けた俳優なんだろうと思います。その代表は上記にある「ジョーカー」でしょう。誰にもケアされることなく、存在しないものとしてヴィランに落ちていくホアキンに胸を締め付けられました。ピンチョン原作のポール・トーマス・アンダーソン監督の映画にも主演していましたね。

対話の冒頭、子供たちはこう告げられる。「これから君にいくつか質問をする。正しい答えも間違った答えもない」。その言葉をそのまま素直に受け止めて、本当に自分の思っていることを話すことができるのは、現代社会においてはもはや子供たちだけの特権かもしれない。いや、ローティーンの頃にネットにアップした動画が数年後に炎上して謝罪に追い込まれるようなポップスターを見ながら育った彼ら彼女らの中には、大人たちのように口をつぐむことを処世術として身につけている子供もたくさんいることだろう。『カモン カモン』のエンドロールに入る直前、画面が音声とクレジットだけに切り替わった後に「スーパーヒーローのようなパワーがあったらどんな力で何をしたい?」と質問された女の子は次のように答える。「多分、その力は使わないと思う。自分自身でいることがパワーだ」。

(中略)

主人公ジョニーだけでなく『カモン カモン』に出てくる大人たちは一様に、個人的な大きな問題を抱えていて、何かを諦めてしまった後のような沈痛なムードに深く包まれている。人々が「正しい」か「間違っている」かばかりを気にするようになって、マスメディアや会社や学校といった公の場が奇妙な静けさに包まれるようになったこの世界。その反動で、ソーシャルメディアではますます攻撃的な言葉が吹き荒れているこの世界。まるでボトルに入れたメッセージを荒涼とした海原に放つように、『カモン カモン』はそんな世界の「未来」に向けて、ハッシュタグやプラカードに書かれたような言葉ではなく、誰もが自分自身の言葉で、わかり合えない他者との対話ができる日がやってくることを切実に願った作品だ。

言葉遣いに気を付けています。人の気持ちを察することができるように配慮をしています。それでも、少し前にちょっと感情的になって嫌な言葉を吐いてしまいました。今でも気持ちが晴れません。そんな出来事を想い返しながら、自分自身でいることがパワーだ。という言葉にハっとさせられます。嫌な言葉を吐いてしまった後に、その相手ともう少し対話をしたかったのですが、タイムアップであやふやなまま終わってしました。たった一言の過ちがキャンセルにつながり、MeTooの合唱が起きてしまう社会です。それでも伝えたいメッセージがあるときには、ここに書かれているように「わかり合えない他者との会話」が大切だと強く思います。

カモン カモンの「ジョニー」のように、辛抱強く対話を続けることをがんばろうと思います。それでも、ジョーカーの「アーサー」のように、理解してもらえないこともあるでしょう。ボクが大切にしていることに「聞く力」があります。Keep Cool But Careでいられるように、聞く力を自分にも他者にも使いたいと思います。もしかしたら、MeTooに、キャンセルカルチャーに直面するときには、ちゃんと「聞く」という行動からはじめようと、改めて思うことができた、作品たちとこの本と、最近の出来事でした : )

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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