トム・クルーズ主演のスパイ映画シリーズ「ミッション:インポッシブル」の最新作「デッドレコニング PART ONE」を観ました。劇場はTOHOシネマズ日比谷のIMAXレーザーシアターです。IMAXレーザーの劇場で観て本当に良かったと思える、これぞハリウッド映画というカタルシスを味わうことができた大満足の映画でした。
今回も、作品の背景、ストーリー、撮影と編集の視点で感想を記録しておきます。
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE ―― 作品の背景について
2022年に公開されたトム・クルーズ主演の大ヒット作品「トップガン マーヴェリック」では、「終わりはくる。だが、今日ではない」というセリフがまるで映画のことを言っているようだと話題になりました。本作でもトムは映画、強いてはハリウッド映画の終焉が「今日ではない」ということを証明してくれました。
ちょうど今、ハリウッドでは脚本家・俳優による終わりの見えないストライキが続いています。資本主義が進み、分断がおき、世界のバランスが変化する中で、これまでの大きな資本による映画作りが過渡期を迎えています。ハリウッドに育てられ、ハリウッドを支えてきたトム・クルーズのような俳優はその大きな変化の渦中にあり、大きな問題意識を抱えていると思います。変化もある部分における終焉も必ずやってくるけれど、それを良い方向に向けるのはやはり映画そのものの力であると、そんなことが実感できる映画でした。本作のクライマックスは本当に映画の力そのものです。劇場にいる人、ボクの座る席から見える人たちは、そのシーンで身をよじらせる姿が見え、息をのむ息づかいが聴こえてきました。その体験を共有することでボクは「今日じゃない」と思えることができました。
加えて、本作ではロシアの策略によって世界の危機が訪れるかのように見えて、実はその裏側にはアメリカの手が伸びていた。というシニカルなストーリーが織り込まれています。ボクが住む日本における実感では、今の世界の敵はロシアであると見えています。真実の9割はそれで間違いないとも思っています。しかし、残りの1割には複雑に絡み合う見えない敵がいるのではないか。ハリウッドにおけるストライキも、表に見えているもののほかに、見えない部分が存在して何かを動かしているのではないか。ハリウッド映画の超大作の中に、そんなもうちょっと考えてみようよ。というメッセージも感じる作品でもありました。
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE ―― 作品のストーリーについて
物語は海底に潜むロシアの原子力潜水艦の艦内からはじまります。レーダーを無効化するAI機能を備えた潜水艦で、ロシアはいずれそれを戦闘に使うことを目論みながら、テスト航行を続けています。しかし、その無敵のAI機能が暴走をはじめてしまいます。AIが乗組員をだまし、ミサイルを発射させ、それが自らの艦体に被弾することになり潜水艦は破壊、乗組員は冷たい海の中で亡くなってしまいます。絶命した乗組員が次々と流氷が浮かぶ海面に浮かび上がってくる中、潜水艦を指揮する2人の司令官の首に光るものがありました。「それ」と呼ばれるAIにアクセスするための、鍵。2つを1つにすることで機能する2組の鍵でした。
「それ」と呼ばれるAIは世界中の情報にアクセスし、それらを操作することができるAIです。デジタル上にある世界のすべての情報が「それ」に握られてしました。AIの暴走を止めるため、もしくはその力を自らの力とするために、2組の鍵の争奪戦がはじまりました。IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)に所属する「イーサン・ハント」には、その鍵を手に入れろというミッションが下されます。
イーサンが最初に向かったのはアラビアの砂漠。そこには鍵の1つを手中にした、かつてのイーサンの仲間である「イルサ」が鍵を奪おうとする賞金稼ぎから逃げていました。イルサを助け、鍵の1つを手に入れたイーサンは、その鍵の能力と、ミッションの依頼主の目的を探るために変装して、CIAに潜入します。そこで真相に一歩近づいたイーサンは、手に入れた鍵を使いながら、もうひとつの鍵を持つものをおびき寄せ、鍵が効力を発揮する場所まで辿りつこうと作戦を立てます。
鍵の取引のためにアブダビ空港に、そこで出会った「グレース」に奪われた鍵を追ってローマに。グレースから闇のエージェント「ガブリエル」に渡った鍵の取引場所となるオリエント急行へと舞台は移っていきます。ガブリエルに殺害されたイルサに代わり、グレースがイーサンの仲間へと加わり、オリエント急行ではガブリエルと激しい戦いが繰り広げられます。最後にガブリエルを出し抜き鍵を手に入れたイーサンは、同時にガブリエルの部下であったが、最後にイーサンを助けてくれた「パリス」から、その鍵を使う場所は沈没した潜水艦「セヴァストポリ」であることを知らされます。世界の脅威を止めるため「セヴァストポリ」へと向かうイーサンの活躍は、PART TWOで描かれます。
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE ―― 撮影と編集について
本作の撮影と編集には、ハリウッド映画の快楽が詰まっています。ローマ市街を黄色いフィアットで走り回るカーアクション。オリエント急行に乗り込むために、断崖絶壁からバイクを使って飛び降りる縦方向のアクション。オリエント急行の屋根の上で繰り広げられるバトルシーンでは、これでもかという激しい横方向のアクションが。そして、爆破された橋から滑り落ちる列車の中で繰り広げられる手に汗にぎる、再び縦のアクション。大胆な左右・上下の動きと変わるカメラの位置、そして大きな音。劇場全体がビクっと背筋を伸ばし、身をよじらせて、フーっと息をつく。これこそが映画体験だと改めて思いました。
ボクは一人で観に行きましたが、隣の女性もおひとりだったようです。つい体が動いてしまうこと、つい息をついてしまうこと、一人だとちょっと恥ずかしかったりします。でも、隣の人もそうなんだなと確認ができると、とても楽しい気分になります。観る環境も、観る映画も、多様性があっていろいろ選べる環境が進んでいくことはとても良いことです。しかし、その中で早めに終焉を迎えてしまうのは、こうしたハリウッドの超大作なのではという危機感があります。しかし、それでも、映画館で見知らぬ人と同じ体の動きをし、同じ息づかいをすること。こんな体験の終焉は「今日ではない」と言いたいし、そのための支援をしたいと思いました。ちょっと待てば、いつでもどこでもハリウッド映画が観れてしまうけど、こうして映画館で観ることを大切にしていきます。と、トム・クルーズに誓います : )
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