とても良いネットフリックス映画を観たので記録しておきます。
「ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから」は、2020年に配信されたネットフリックスオリジナル映画作品です。配信は少し前なので遅ればせながらですが、この夏の観ました。同じ時期に観た映画・ドラマ作品で記憶に残っているのが「ブラック・ウィドウ」「イン・ザ・ハイツ」、それから「大豆田とわ子と三人の元夫」で、いずれもこのブログで感想を記録していますが、共通するテーマは「女性の自立と旅立ち」と、「それを優しく見守る家族や男性」でした。
この構図・構造が今や、これからに尊重して進めていかなければならない姿なんだと感じます。その中でも、特にこのハーフ・オブ・イットはハイティーンの半径5mの世界が描かれていることで、より切実に、そして自分の子どもたちの世代を想像しながら観て、感じることができました。その背景や、ストーリー、撮影と編集についてまとめます。
ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから ―― 作品の背景について
アメリカの小さな田舎町に存在する、人種差別、ジェンダーマイノリティに関わる問題、格差問題、スクールカーストの実情が描かれています。監督は「アリス・ウー」、台湾からの移民の両親のもとで育ち、レズビアンを公言しているという背景があります。心が張り裂けるほどの辛さではないけれど、いつも心がズンと重くなってしまうようなそれらの問題が、白人ばかりの小さな町に父親と二人で暮らすハイティーンの主人公「エリー・チュウ」の背中にのしかかります。そして、こうした問題に直面するハイティーンがそうするように、エリーもその重苦しい心の内を包み隠して生活しています。
心が重く苦しいけれど、自分が少しガマンすればよい。自分が何か行動を起すことで何かが壊れてしまいそうだから。と、人種やジェンダーやスクールカーストに悩む若者やすべての人たちに、小さなきっかけと行動で、その苦しみから解放できるんだと教えてくれる。映画の中のエリーの小さな行動の積み重ねが、そうしたちょっとした勇気を湧き立たせてくれる物語です。
ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから ―― 作品のストーリーについて
物語は主人公エリーの「この話はラブストーリーでもなければ、欲しいものを手にいれる話でもない」というモノローグからはじまります。その一人語りそのままに、本作はストーリーテラーはエリーであり、エリーの視点で物語が進みます。エリーは頭脳明晰で、文学・映画などのカルチャーにも詳しい素敵な女性です。でも、中国をルーツに持ち、妻の死後は引きこもりのような生活をおくる父親との貧しい二人暮らし。という背景から、学校ではスクールカーストの下の方にいる内気な女の子というポジションです。
そんな彼女は、ある時同じ学校に通う男性「ポール」からラブレターの代筆を頼まれることになります。ポールが好意を寄せる相手は学校のマドンナ「アスター」で。まだ自分のジェンダー認識が曖昧なエリーが密かに好意を感じる相手だったという複雑な構図になります。しかし、生活のために代筆を引き受けるエリー。エリーと同じように文学・映画に通じているけど、周囲にそれを理解してくれる友人がいないことを寂しく感じていたアスターは、エリーが代筆するラブレターに心を惹かれていきます。
ラブレター効果によってアスターとの距離が縮まっていくことに喜びを感じるポールとエリー。二人のプロジェクトの進行は同時にポールとエリーの間の友情も育んでいきます。不器用だけれど、実直で差別意識を持たないポールは、エリーに向けられる偏見に対して憤り、それに対して声を上げ、それを正すように行動も起こします。加えて、引きこもりがちだったエリーの父親にも積極的にコミュニケーションし、彼の心の壁を溶かしてくれもします。
エリーとポールの友情が進展するとともに、ポールとアスターの距離も縮まっていきます。奇妙な三角関係は、文化祭でエリーの発表をポールが手助けしたことで違う方向に転がり始めます。文化祭でギターの弾き語りを披露したエリー。その姿に心惹かれるポール。文化祭の発表がきっかけで、クラスメイトのパーティに呼ばれたエリーは慣れない場所でアルコールを飲みすぎて酔いつぶれてしまいます。それを介抱するために自宅にエリーを連れ帰るポール。翌日、二日酔いで目覚めたエリーは、ポールの家に訪れたアスターと鉢合わせてしまいます。気まずい邂逅ではあったけれど、それをきっかけにエリーはアスターと二人の時間を過ごすことになります。
二人の時間ではアスターの告白を聞くことになったエリー。その告白を聞きながら、自分の行く道も考えはじめます。そんな折に、ポールからキスを迫られるエリー。ポールから好意を寄せられていることを知ります。アスターとポール、二人の告白を聞いたエリーは、住民が集う教会でアスターを前に自分の気持ちを告白します。白人のカトリック信者が集う田舎の教会での告白は、多くの人の嘲笑を受けることになりますが、アスターとポールはエリーの告白に真摯に耳を傾け、支援の言葉を発します。
この告白は、エリーが今まで背負ってきた人種の壁、ジェンダーの壁を壊し、新たな道へと進むことを決意させる告白にもなりました。エリーは自分の夢を叶えるために、街を出て、大学へ入ることになります。街を出る前にアスターに別れを告げるエリー。最後にはアスターにキスをして、再会を誓い合い別れます。そして、駅から電車に乗って旅立つエリーを見送るのはポールです。お互いの成長を促すことになった奇妙な友情に結ばれて、優しくサポートしてくれたポールに見送られて、エリーは街を出て旅立ちました。
ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから ―― 撮影と編集について
モノローグと控えめな会話で進む物語です。カタルシスを感じる場面、撮影はありません。だからこそ、カメラが映す視点にはとても意識的なものを感じます。アメリカの田舎町の鉄道と道と自然が効果的に画面に映されます。エリーの心の内を反映するように、心細いときには遠くから、感情を込めた言葉は近い視点で、カメラはエリーを捉えます。遠くからの撮影では、田舎町の太く長い道路がエリーの前に後ろに続いています。エリーの家の前にある、少し寂れた駅舎とそこから伸びる線路は、彼女の旅たちを阻害するようにも見え、また無限の可能性を見せてくれるようでもあります。
閉鎖的な田舎町にはびこる差別や格差と、そこで生きる若者の未成熟な心と、瑞々しい成長の過程を、言葉少なくともカメラから伝えてくれるような撮影と編集です。ハーフ・オブ・イットも今観るべき作品です : )
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