遅ればせながら、TVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」をネットフリックスで観ました。日本のTVドラマを通して観たのは久しぶりですが、脚本が「東京ラブストーリー」「花束みたいな恋をした」の「坂元裕二」の話題作ということだったので。TVで毎週の放送を追いかけるのは無理だったのですが、放送終了後にあまり間隔を空けずにネットフリックスで公開されたのがうれしかったです。他のTVドラマもぜひこうした放送のやり方に取り組んで欲しいです。
そして、とても良いドラマでした。脚本や撮影から、海外ドラマのようなギミックやユーモアを感じることができ、爽やかで微笑ましい気持ちになりました。まだ観ていない人にはスポイラー(ネタバレ)になってしまいますが、背景やストーリー、撮影と演出についてまとめておきます。
大豆田とわ子と三人の元夫 ―― 作品の背景について
三度結婚し、三度離婚しているバツ3の女性社長でシングルマザーという主人公のプロファイルが想像させてくれるように、ジェンダーや肩書による偏見・差別・倫理に関する問題提起が各所で描かれます。主人公「大豆田とわ子」の前に、そうした偏見や差別に満ちた典型的なミソジニストたちが次々と現れては、とわ子の心に不快感を植え付けていきます。
一方で、とわ子が結婚し、離婚してきた3人の元夫たちはそうした偏見や差別には無縁の人たちで。今でもとわ子を尊敬し愛し続けるチャーミングな男性だったりします。このコントラストがグロテスクであり、また微笑ましくもあり。ミソジニーな人たちと、それと対になる元夫のふるまいから、今学ぶべき倫理について楽しみながら考えることができるドラマです。
大豆田とわ子と三人の元夫 ―― 作品のストーリーについて
本作のナラティブは4つ。大豆田とわ子の仕事とプライベート。それから、元夫たち「八作(はっさく)」「鹿太郎(かたろう)」「慎森(しんしん)」の3人の生活が描かれます。第一部と表現されている、第6話までは、とわ子と元夫3人のそれぞれの過去と今の関係が1話ずつ語られ、慣れない女性社長としての振る舞いや、それをかき乱すように現れるミソジニーな人々の振る舞いに心がくさくさとしてしまうとわ子が、チャーミングな夫たちに癒されるストーリーが続きます。
それと並行し、元夫たちの前にはそれぞれ新しい女性との出会いがあり、改めて自分の現在地を見つめなおし、新しい出会いに決断を下す3人の元夫。それから、とわ子の親友「かもめ」との別れを経て、第一部は完結します。
第2部ではとわ子の新しい出会いと、社長を務める「しろくまハウジング」の窮地というストーリーが進みますが、背景にあるのは親友かもめを失ったことをきっかけに、自分の過去と現在地と本当の気持ちを振り返りながら苦悩するとわ子が描かれていきます。ユーモラスでチャーミングだった第一部とはちょっとトーンが違う、ユーモワは含まれているが少し重く苦しい雰囲気が漂う第二部です。
三人の元夫たちのサポートを受けながら、仕事の窮地を脱し、かもめとの別れにも整理をつけ、自分の生き方にも決断を下すとわ子。これが第9話。そして、最終話はとわ子の母の過去にストーリーが移っていきます。最終話の手前で主人公のストーリーが落ち着き、最終話では彼女の母のルーツに迫るという展開は、奇しくも先日観たドラマシリーズ「地下鉄道」と全く一緒で驚きます。
加えて、とわ子の母が本当に愛していた人は女性だった。という最終回にして驚きの事実が明らかになります。現在よりも、もっとジェンダーに対する偏見が強かった母の時代。お互いに想いを寄せつつも、結ばれることがなかった、母とその愛する女性の選択と、今、一人で生きていく。ことを選んだとわ子の決断がクロスオーバーしていくことで、大豆田とわ子のストーリーは完結しました。
大豆田とわ子と三人の元夫 ―― 撮影と編集について
ブレイキングバッドのように毎回冒頭に入るフラッシュフォワード。しかし、それをユーモラスに、ナレーターが「大豆田とわ子」と連呼しながら語ることでテンポが生まれ作品に引き込まれていく演出。毎回冒頭と最後に、とわ子自身がカメラ目線でオーディエンスに向かって語りかけるタイトルコールなどなど。微笑ましく、かつ作品の世界に没入させてくれる編集が見事です。
マンションの部屋やオフィスなど、屋内でのシーンが多いにも関わらず、たくさんの視点(カメラの位置)から人物も室内や小物も撮影することによって、作品の世界観を伝えてくれる撮影技術も作品に軽やかなテンポを加えていました。若手国内ラッパーをフューチャリングしつつ、主人公や夫たちも登場させて、複数バージョン作られたタイトルミュージックも話題となりました。
ストーリーに加えて、国内TVドラマではなかなか見ることができない撮影と編集も「大豆田とわ子と三人の元夫」の見どころです。久しぶりの国内TVドラマでしたが、爽やかな気持ちで観終えることができ、かつ、今学ぶべき倫理について考えさせてくれる作品でした : )
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