クイーンズ・ギャンビット ―― 女性活躍の時代に、女性の活躍を称える男性の振る舞いがとてもよかった

2020年公開のネットフリックスのリミテッドシリーズドラマ「クイーンズ・ギャンビット」を最終話(7話)まで観終えました。ネットフリックスのリミテッドシリーズドラマで過去一番の成功を収めたという本作が、なぜ2020年に多くのオーディエンスの耳目を集めたのか。昨年は多くの女性主人公が活躍する映画やドラマ、映像作品が公開されましたが、その背景にはきっと時代のナラティブがあると考えています。

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1950年代~60年代のチェスの世界で活躍した主人公「ベス・ハーモン」の生き方を、幼少期の孤児院でのチェスの出会いから、世界チャンピオンに成りあがるまでを描いた作品です。その背景とストーリー、撮影と演出について、整理しておきます。スポイラー(ネタバレ)情報も含みますので、気になる方はお気をつけください。

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クイーンズ・ギャンビット ―― 作品の背景について

クイーンズ・ギャンビット 背景

男性社会のチェス界で、年上の男性をバッタバッタと倒す女性活躍のドラマです。今の世界の空気を感じる背景です。ただ、前述の通り、舞台設定は1950年代~60年代の米ソ冷戦期となっています。今よりもよりもっと様々な格差が横行していた時代。冷戦期でもあり、世界が分断されギスギスした空気に満たされていた時代です。

チェスを巡る男女の差別を中心に、主人公のベスが孤児院から引き取られていく場面では、親友だったカラードの女子ジョリーンとの人種差別の問題も透けてみえます。ここは、物語の後半で、大人になったベスとジョリーンが再開する場面で回収されます。「白人のあなたに嫉妬していた」と告白するジョリーンは、人種差別問題を扱う法律家を目指していました。

幼少期には母親と2人でトレーラーに住み、母親の自死によって孤児院へと引き取られるベス。それから、ベスの最大の恩師でありチェスとの出会いのきっかけを作りサポートしてくれた「シャイベル」さんは、孤児院の地下に住む用務員として生涯を終えました。格差社会の下側にいる人たちの厳しさと活躍を描く物語でもあります。また、ベスの初恋の人であった記者の「タウンズ」はクイアであり、ジェンダーへの問題提起を考えさせられます。

そして、米国とソ連の争い。チェス王者の「ボルコフ」はソ連を背負い、それに挑むベスは米国と民主主義を背負って戦えとの圧力がかかります。分断や地域格差という大きな問題も主人公を通して投げかけてきます。クイーンズ・ギャンビットは、1950年代当時から今までも続く、様々な格差を詰め込んで我々に投げかけてくる作品でした。それらの諸問題をベスが超えていくための力をくれたのが、ベスと戦い敗れていった男性たちでした。彼らの振る舞いが最高で救われます。次のストーリーの項目で説明していきます。

クイーンズ・ギャンビット ―― 作品のストーリーについて

クイーンズギャンビット 撮影と編集

クイーンズ・ギャンビットのストーリーは、女性活躍の物語であり、それを支える、今、社会にとって必要な女性をエンパワーメントする男性の物語でもありました。ベスはそうした男性たちの支えのもと、チェスの世界チャンピオンに昇りつめます。ベスのチェスとの出会いを作ってくれた孤児院の用務員シャイベルさんは、ベスが孤児院から引き取られていった後も、はじめての大会に出るための小さな資金を援助してくれ、そして孤児院の地下でなくなるまでベスを想い、活躍を祈り続けました。

ベスがはじめての大会で出会った、チェスプレイヤーであり記者でもあるタウンズは、はじめから男性社会であるチェスの世界で戦うベスに優しい眼差しを向けてくれます。それは、彼がクイアであったことも背景としてあるのかもしれません。同時にタウンズはベスの初恋の人であり、ずっと想い続けていた男性でもありましたが、ジェンダーの問題でその恋は適いませんが、最後までよき友人として支え続けてくれます。

里親としてベスを引き取った母親「アルマ」との女同士の関係もとても好きでした。ベスとアルマはパートナーとして、ベスのチェス界での戦いを支え合います。戦いの中で、ベスに敗れていった「ベルティック」「ベニー」は、彼女の魅力に惹かれつつ、ベスがより強い相手を超えられるように支援をしてくれます。母親やライバルに支えられながら、ベスは米国を制し、世界へと飛び立ちます。最強の相手は王者ボルコフ。強大な敵を目前にし、ベスは過去から依存していや薬物やアルコールへの依存を強めていきます。一度はどん底近くまで落ちてしまったベスを救ったのもやはり友人たちでした。

シャイベルさんの死をきっかけに再開した孤児院時代の親友ジョリーン。彼女と訪れたシャイベルの葬儀によって、孤独を感じていたベスはシャイベルさんからの深い愛情を再び知ることになります。復活を期して臨むソ連でのチェス大会の費用を負担してくれたのはジョリーンです。人種差別と闘うために法律学校への入学を目指していたジョリーンは、その学費をなげうってベスを支援してくれます。再び戦うことを決めたベスの周りには、ベルティック、ベニー、そしてタウンズも応援に駆け付けます。

そして挑んだ王者ボルコフとの再戦。かつてベニーが提起した「ソ連はチームで戦うが、米国プレイヤーはそれをしない」という課題に対して、友人たちが集い、ベスを支え、ついにボルコフを打倒します。また、そこでの王者ボルコフの振る舞いにも感動しました。常に冷徹な仮面を被った佇まいのボルコフが、ベスに負けたとき、笑みをこぼしながら、彼女を称えます。米ソの冷戦を背負って戦った2人のその姿に、会場全体で賛辞を送ります。戦いに注目していたソ連の人々も同様でした。ベスを称え、サインを求め、ソ連の街の路上でチェスを打つ、いかつい顔した老人たちもベスを囲み彼女の偉業を祝福します。

様々な格差の問題は、こうした相手を認め、称える姿を見ることで、解消され溶けていきます。

クイーンズ・ギャンビット ―― 撮影と編集について

クイーンズ・ギャンビット 作品のストーリーについて

まず、なによりも、主人公ベス・ハーモンを演じた「アニャ・テイラー=ジョイ」が素晴らしい。台詞は少なく、感情の起伏も小さいキャラクターですが、彼女の大きな目と口元で多くのものを語ります。そしてその彼女が目と口で雄弁に語る表情を映し出すまでのカメラワーク(撮影と編集)がすごく良いです。チェスの会場である、1950年代の瀟洒な建物や家具。例えば、ホテルの外側からカメラが周り、ベスの部屋の窓からカメラが入り、彼女の正面にまわって表情を映し出す。部屋にひとりいる彼女の目からは、次の試合の戦略を巡らし、答えがひらめく様子が言葉なくしてもわかります。

強敵との対戦の前も、会場に入ったベスの足元からカメラが移動し、階段を駆け上がり会場を見回して、相手が座る椅子へと移動し、対戦相手の目線で、正面に座るベスの表情を映し出します。そこには、これからの戦いに向けて、強い意志と覚悟で臨む彼女の表情が見えます。性別や国の違いや格差はカメラから見える景色にはもう存在せず、好敵手として倒すべき、でも美しくて見惚れていまう相手がそこに存在するだけです。

本当にアニャ・テイラーが演じるベスが素晴らしい。冒頭に書いたように、女性活躍の時代に美しく強いキャラクターがたくさん描かれています。例えば、アベンジャーズの「ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ」や「キャプテン・マーベル/キャロル・ダンヴァース」、ゲーム・オブ・スローンズの「デナーリス」「アリア」。そんな女性キャラクターの中で、個人的な一番だったのは、「ワンダーウーマン/ダイアナ」を演じる「ガル・ガドット」だったのですが、アニャ・テイラーがそれを超えました。

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何度も言いますが、女性活躍の時代です。そんな時代に最も素晴らしいベス・ハーモンの活躍は、ぜひ観ておくべきだと思います : )

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