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ウォッチメン|映画→テレビシリーズと観て、ちょっとしたボタンの掛け違いで現実にも起きた、起きるドラマ

緊急事態宣言下のゴールデンウィークは「ウォッチメン」を観て、ステイ@ホームしていました。

きっかけは田中宗一郎(タナソー)さんのポッドキャスト「POP LIFE:The Podcast」でした。宇野惟正さんと小林雅明さんをゲストに呼んで語られたウォッチメン回の放送で、「引用のタペストリー」と評し、全人類必見を言わしめたTVドラマなんで、観とかないといけないなと。この機会に。

 
ウォッチメンのオリジナルは1986年のコミックからはじまります。2009年に映画「ウォッチメン」が公開され、2019年にHBOのテレビシリーズ「ウォッチメン」が放送されました。日本で視聴できるようになったのは2020年から。今回ボクは映画のウォッチメンから観て、次にテレビシリーズの9話を観ました。

事前の知識はPOP LIFEのトークだけで、ほぼ内容を知らない状況でしたが、映画→テレビシリーズの流れで観て正解だと思いました。映画は原作に近い形で撮影され、テレビシリーズはそれから30年以上が経った世界として描かれています。映画を観なくてもドラマシリーズの展開は理解できるけど、観ていたから「第7騎兵隊」のマスクの模様の意味が分かる。といった感じ。両作品ともに、ちょっとボタンを掛け違えていたら同じ世界、同じ事件が起きた、起きるのではないかという緊張感を持って観ることができました。

映画-ウォッチメン~ヒーローでありながら、ヒーローとして行動できない者たちのグロテスクな感情

映画 ウォッチメンは核戦争の一歩手前まで米国とソビエトの緊張が高まり、終末時計が0時5分前まで進められた世界の話です。全人類にとっての大きな脅威を退けるために、とれるアクションは何なのか。必要な犠牲があるのか。を問うてきます。

通常のヒーロー物語では、そこで超人的なスーパーヒーローが自らの危険を顧みずに人類のために力を奮う。となるのですが、この世界ではヒーローは存在するけれど、人々はそれに期待をせず、ヒーローたちもそんな行動をとらずにいます。その世界では、ヒーローがマスクを被って自警活動をすることが非合法であり、禁じられていたからです。

かつてのベトナム戦争では米国のために力を奮ったヒーローたちは、その強大な力のために人々から恐れられる存在となり、法の下で国に遣えるか、引退するか、日の当たらない場所で暗躍するか。とそれぞれ別の道を歩んでいます。でも、その中には大きな犠牲を厭わずに核戦争を止めようとする者たちがいて。またそれに気が付き、止めようとする者たちとヒーロー同士で争うことになる。そんなストーリーです。

米ソ冷戦は現実に起きた事実です。そこではもしかしたら、あるヒーローが考える大きな犠牲のもとでの決着を考える人がいたかもしれませんし、実行されたかもしれません。ヒーローのコントラストも生々しかったです。かつては同じチームであった者たちの中でも、力のバランスや性別によって、格差問題やジェンダー問題が起きていました。ヒーローでありながら、ヒーローとして行動・活躍できない者たちのグロテスクな感情に感じることが多かった映画です。

テレビシリーズ-ウォッチメン~人々は仮面を被っている。世界はすれすれの均衡で保っている。

そして、テレビシリーズのウォッチメンです。ドラマは1921年に実際に米国で起こった「タルサ暴動」の最中からはじまります。

白人と黒人の争いによって数百人の死者を出した事件です。ボクはこの作品ではじめて知った歴史です。人種問題がこんなにも大きく叫ばれ、2010年代にはブラック・ライブス・マターという大きなアクションもあったのに、この過去の歴史が表面化されていないことに驚きました。映画では核戦争の恐怖が描かれましたが、ドラマシリーズはそれに代わり人種問題の恐怖が描かれます。これもまた、今でもちょっとボタンの掛け違いがあれば実際に起きてしまうのではないか、と思わせるテーマです。

ここで、POP LIFEでタナソーさんが本作品を語る上でメモした言葉を引用しておきます。

北米におけるリバタリアニズムや選民思想に代表される保守思想の歴史と広がり。アラン・ムーア86年作品『ウォッチメン』における主に思想面におけるロールシャッハのキャラクター造形。その参照元であるスティーヴ・ディッコが生み出したクエスチョン、ミスターAといったキャラクターの存在。当時のディッコの思想的背景にあったアイン・ランドの客観主義。アイン・ランドの著作『水源』、『肩をすくめるアトラス』の思想的な影響。アイン・ランド脚本によるゲイリー・クーパー主演49年映画『摩天楼』と、ハリウッドにおける赤狩り。『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』における映画『摩天楼』の引用。ピーター・ティール、ニック・ランド、グレン・ベック、ショーン・ハニティ、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスク、エドワード・スノーデンといった存在との関係。選民思想としての5パーセンターズとの比較

ハイコンテクスト過ぎてなかなか難しいのですが。。(^^;)
映画ウォッチメンで大きな犠牲を止めようと暗躍し、観る人の人気を得たヒーロー「ロールシャッハ」を模したマスクを被った「第7騎兵隊」は、ドラマシリーズでは選民思想を持ったテロリストとして描かれています。

表向きには人種差別なく生活する人たちでも実は仮面を被っていて、選民思想の持ち主であったり。ヒーローではない警察官も身を守るために素顔を知られないようマスクを被ったり。今、現実の世界でも多くの人々は見えない仮面を被っていて、すれすれでも均衡を保っている社会・世界が少しのボタンの掛け違いで崩れてしまうのでは。そんな怖さを感じます。

そしてもうひとつ、タナソーさんが挙げたキーワード「自由意志と決定論」について。映画でもドラマシリーズでも最強であり、唯一人類を超越した力を持っているのが「Dr.マンハッタン」です。彼は未来を見ることができます。そして、それは決定していることで変えられるものではありません。だからDr.マンハッタンは超合理的に物事を考え向き合います。

そんな彼が愛する本作の主人公「アンジェラ・エイバー」のためにとった行動と、決定された未来との向き合い方が後半の3話で明らかになるとともに、それまでのストーリーとつながってくる。そんな最後の3話が救いとなるテレビシリーズです。

ちょっとボクには内容を語るのは難しすぎるテーマ・作品ですが、今の現実社会のすれすれの危機感と向き合い方を考えさせられて、ドラマとしても最後にストンと腹に落ちる心地よさを感じる作品でもありました。ちょうど今だと、問題となっている「自粛警察」と自警団が重なるような気分も味わえて、この作品も今観ることができてよかったドラマでした。