WBCの決勝戦。
初回に日本が4点を先制し、ボクはうれしい気持ちよりもちょっとだけ、残念な気持ちが強かった。
だってこれまでのこの大会での試合は、どれも絵に描いたように、物語のように。感動的な名勝負ばかりで、やっぱり決勝戦も緊迫した投手戦やスモールベースボールや、逆転ホームランなんかを期待していた自分がいたんだ。
ナショナリズムじゃなくて、自分の高揚感でこの大会を楽しんでいたんだ。ってそんな気づきもあって、少し情けない気持ちになっちゃったりもしたけど、、。
それでもやっぱりこのWBCには、神秘的な力が働いていたんだろうな。
結局試合はこれまでにない打撃戦での感動的な試合になった。本当に面白い。
例えば4点を先制されたすぐ次の攻撃で、キューバの先頭打者がホームランを打つあたりは、これから始まる物語のプロローグを思わせる。
このたった3時間程度の試合の中に、日本人選手個人個人のストーリーがあった。
川崎
4回にセンターに抜けるかと思われたあたりを鮮やかにダイビングキャッチする超美技を見せた、稀代の名手がエラーを続ける。ボールが手につかない。丁寧に丁寧に来たボールを処理しようとすればするほど、ボールはグラブから、右手から逃げていく。明らかに不安にかられた苦笑い。ハンサムなだけに、余計にその困った顔がドラマティックに見える。年下の二遊間を一緒に守る西岡に励まされて、やっぱり苦笑いを浮かべる。
そんな彼の挽回の場面は最終回にやってきた。
一点差まで追いつかれた次の回。
大会期間中ずっと羨望のまなざしで見つめ続け、慕い続けたイチローがその場面を演出する。
イチローのライト前ヒットでセカンドから一気に生還を狙う。
タイミングはセーフ、だけどキューバの強靭なキャッチャーがホームベースを完全にブロック。ベースをタッチする隙間がない。川崎は迷わず右手をキャッチャーの足と足の間、わずかな隙間にすべりこませる。右手がはいる。微かにホント微かにベースをタッチする。
一点差に追い上げられた悪いムードを一掃する、奇跡の生還。
3つのエラーを帳消しにするすばらしいランニング。そして、名誉の負傷。
渡辺
美しいサブマリン。しなやかなフォームからしなやかなボールを投げる彼は、いつも冷静沈着。投球内容も大崩することはない。その彼が混乱する。川崎のエラーも手伝って、思い通りのピッチングができない。珍しく自分もエラーを犯してしまう。ファーストゴロのカバーで一塁に入る。小笠原からトスされたボールは渡辺のグラブからポロリと逃げてしまう。
冷静な彼が思わず声を荒げる。全身で悔しさを表現する。
世界一を決める、この試合だからこそ見ることができたサブマリン渡辺のそんな姿。
福留
この試合でも見せてくれた。
キューバの打線を考えると、何点でも引き離しておきたい9回表の攻撃。満を持して切り札として登場する福留。王監督の思惑に見事に応えるタイムリーヒット。バッターボックスに立った彼は、もう準決勝のように不安な表情はなかった。だからスターティングメンバーとして出場してもきっと活躍していただろう。だけどもあえて切り札に甘んじた。そしてその立場で結果を出した。
王監督を世界の名監督としらしめたのは福留。
松中
もともと激情家の彼が、もっとも感情を露にしたのはその走塁で。
どんなに素晴らしいヒットをホームランを放っても、きっとあんなにはしゃいだ喜び方はしないだろう。両手を挙げて、ジャンプして。少年のように喜びを表現する。少年松中。その走り方を見れば、そんな喜び方がしっくりくる。イカツイ彼が一生懸命走る姿は微笑ましい。一生懸命ベースを駆け抜け、すべりこんで、喜びを全身で表す彼が愛しかった。
大塚
彼も松中と同じ。あんなにかわいらしい笑顔を持っていたのだなんて。
大リーガーはイチローと大塚だけ。彼は移籍したばかりのチームの反対を押し切りWBCに強行出場した。強い信念。マウンド上の彼はストイックな程に強張った顔で、右腕を頭の真上から、これ以上ないオーバースローでキャッチャーミットにボールを投げ込む。
そんな彼がみせた無邪気な笑顔。優勝後の彼に見せてもらった。日本が優勝したうれしさ。大塚の笑顔でそれが何倍も強く感じることができた。
イチロー
彼についてはもう語ることがない。
マスコミが言うように、専門家が言うように、友人たちが言うように、チームメートが言うように。彼がひっぱった日本代表。彼がもたらした世界一。そのリーダーシップと、実力は誰の目にも明らか。彼が語るコメントはどれも正解。
今大会のイチローはパーフェクトだった。
キューバというチームも決勝戦の相手として素晴らしいチームだった。
大リーグ主導で考えられて、運営されたこの大会。全員アマチュアの彼らが決勝に進出したのもドラマだし、その相手が日本であるのもまたドラマ。いくら点差を広げても、いつまでたっても不気味さを感じる。そしてその予感通りに土壇場で一点差まで詰め寄る粘りを見せる。出場が決定したのも土壇場で、虐げられてきた彼らがひたむきにプレーする姿には非常に好感が持てた。日本と同じように、野球が好き。そのプレー一つ一つからそれが感じられた。
ひたむきに大好きな野球を丁寧に大事にプレーする。
そんな2チームが決勝で戦えたんだ。
ほんとうに面白かったWBC。そして最高の結果とエンディングまで見せてもらえた。
自分がプレーしていた頃、試合で負けて流した悔し涙以来、久しぶりに野球でちょっと泣けたよ。またぜひ戦りましょう。ワールドベースボールクラシック。
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