イノベーションへの解|にわかに聞こえてくる「ジョブ理論」をクリステンセンの過去の文献を基に考える

マーケティングやマーケティング・リサーチに関わる仕事を行っていて、最近にわかに聞こえてくるようになったワードが「ジョブ理論」です。

それまでは「インサイトの発掘」とか言われていた調査課題が、ここのところ「ジョブの発見」と言い換えられるような、そんな使い方をもって語られています。所謂バズワードなのかもしれませんが、ジョブ理論を耳にする少し前に、ジョブ理論の提唱者のクリステンセンの「イノベーションへの解」を読んでいたり。ウォンツ発見型の定性リサーチに取り組んでいたりと、なんとなく”縁”を感じて、少々突っ込んで考えて、実践してみようかと、そんな気持ちでいます。

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バズワードであることともに、周囲からは「過去の焼き直しだ」「説明がわかりづらい」「事例が古い」「今言い出したことではない」なんていう批判も聞こえてきたりしますが、ここで一度ジョブ理論の「簡単な説明」「事例」「明らかにする方法、聞き方」を整理しておきます。

ちなみにボクはクリステンセンの新刊「ジョブ理論」はまだ読んでいないのですが、15年前の名著「イノベーションへの解」の中におけるジョブの説明を基に整理をします。新刊も読まないといけないかなぁ。。

目次 - post contents -

「ジョブ理論」の簡単な説明

ジョブの発見の大切さは、イノベーションへの解で以下のように説明されています

マーケティングで狙い通りの成果をあげるためには、顧客がものを購入したり利用したりする状況を理解することが欠かせない。具体的に言えば、顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」がしょっちゅう発生し、彼らはとにかくそれを片づけなくてはならない。顧客は用事を片づけなければならないことに気付くと、その用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないものかと探し回る。顧客は実際、こんな風に暮らしているのだ。

「雇う=対価を払うこと」と説明している点が、消費者インサイト(消費者の深層心理)よりも具体的です。当社では「ニーズ=根源的に必要なこと」に対し「ウォンツ=根源的に必要なことを満たすもの」という使い分けをしています。ジョブはウォンツと同等のものという理解を私自身はしています。

その前提で、新しいアイデアに以下のようなテーゼを送っています。

顧客にそれまで関心のなかった用事を優先することを求めるアイデアには、成功の見込みはほとんどない。顧客は新製品が手に入るようになったからといって、用事の方を変えることは絶対にないのだ。逆に、顧客がすでに片づけようとしていた用事をより効果的に手軽にやり遂げるのに役立つ新製品なら、成功するだろう。

斬新なアイデアも、それを雇って解決するべき「用事」が生活の中に存在していなければ役には立たない。ジョブ理論を参照するに当たって、この部分をしっかり頭に入れてマーケティングしましょう。というのが最も活用すべき理由だと感じています。

「ジョブ理論」の具体例

クリステンセンはジョブ理論を説明するにあたっての具体例にソニーの商品を挙げています。

ソニーの創業者盛田昭夫は、消費者が片づけようとしている用事を見抜き、その洞察と、その用事をうまくこなすのに役立つ解決策とを結び付ける名人だった。ソニーは一九五〇年から一九八二年までの間に、一二の新市場型破壊事業を築くことに成功している。たとえば、一九五五年に発売された初代の電池式小型トランジスタラジオや、一九五九年に発売された持ち運び可能なソリッドステート白黒テレビなどがある。ビデオカセットレコーダー、携帯型ビデオレコーダー、そして一九七九年に発売され、いまやどこでも見かけるウォークマン、一九八一年発売の三・五インチ・フロッピー・ディスク・ドライブなどもそうだ。ソニーは、素晴らしい発展の足がかりとなったこれらの用途を、どうやって見出したのだろうか。

新製品開発の決定はすべて、盛田自身と五名ほどの腹心が下していた。彼らは、人々を観察したり彼らと言葉を交わしたりしながら、本当は何を片づけようとしているのか考えることによって、破壊の足がかりを探し求めた。小型化や固体電子工学の技術を駆使して、スキルや金を持たない多くの人が、不手際な満足できない方法で片づけていた用事を、金をかけずに手軽にこなす手助けができないかと考えたのだ。盛田たちは、破壊の足がかりを見つけることに関して、並はずれた実績をあげていた。

ウォークマンは「移動中の空白時間を埋めるために雇われた」のだと思います。その用事に対しては音質は関係なく、持ち運べるほどに小型であることが最重要項目です。ジョブに注目すると、優先すべき部分とそぎ落とせる部分がクリアになる効果があります。

「ジョブ理論」を明らかにする方法、聞き方

最初のきっかけとなったバニラシェイクのジョブを明らかにする過程で、クリステンセンは以下のように生活者に問いかけています。

朝ミルクシェークを購入する顧客から話を聞いて、彼らがどんな用事を片づけるためにシェークを買うのか理解しようとした。そこで、同じ用事を片づける必要がある日に、ミルクシェークの代わりにどんな品を雇ったことがあるかを尋ねてみた。顧客は朝のミルクシェークを、同じような成果を得るために雇っていた。通勤時間が長く退屈なので、職場に向かう車のなかで何か楽しめるものが欲しかったのだ。まだ空腹ではないが、今何か食べなければ一〇時には腹が減ることがわかっていた。さらに、いくつかの条件があった。彼らはみな急いでいて、仕事服を着ていて、自由になる手はせいぜい一本だった。

手に入る商品のなかでこの用事を一番うまくこなせるのは、ミルクシェークだったのだ。うまくやれば、粘っこいシェークを細いストローで吸って二〇分もたせることができるので、退屈な通勤時間という問題の対策となる。こぼす心配なく、片手でうまく飲める上、他の物よりシェークを飲んだ後の方が空腹を感じなかった。顧客はシェークのヘルシーさには満足していなかったが、それは問題ではなかった。なぜなら健康的になることは、彼らがその製品を雇って片づけようとした用事ではなかったからだ。

実際の調査に当てはめてみると、以下のように聞いていくことになります。

  • ある特定シーンで使われている商品・サービスを問う
  • そのシーンで今使っている商品・サービスがなかった場合の代替品を問う
  • 使っている商品と代替品の差を問う

この聞き方であれば、アンケートやインタビューですぐに応用ができます。にわかに増えている「ジョブを発見したい」という調査課題に対して、このように応えていくことからはじめてみます : )

イノベーションへの解|にわかに聞こえてくる「ジョブ理論」をクリステンセンの過去の文献を基に考える

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この記事を書いた人

マーケティングに関わる仕事に20年以上携わっています。感銘を受けたポップカルチャーをマーケティング視点で記録したり、日々の暮らしや身に着けているもの、健康・投資について記録するためにブログを活用しています。

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