「新しい市場のつくりかた」では、新市場を創る商品開発をするためには「文化人類学者」を育てろ。と説いています。文化人類学のアプローチを用いたKJ法を使ったり、行動観察を通して定性調査行ってきたものとって、勇気が出る言葉です。
そうした「文化人類学」的な、商品やサービスの開発の仕方として2つの具体例が示されています。ひとつは大阪ガスです。
ガスは100年前、ガス燈として使われることからはじまりました。「明かり」を提供する会社です。そこから、生活者の生活を観察し見つめ続けることで、「調理」を提供する会社、「暖かさ」を提供する会社として成長し続けています。ガス利用文化を生活の中に普及し続けている会社です。
もうひとつは、ケニアに「岩手県伝統の石釜」を普及している「岸田さん」です。以下は、JICAからケニアに派遣された岸田さんのエピソードです。
ケニアの伝統的社会では、煮炊きをするときには三つの石を持ち寄って、それに鍋を置いて加熱調理をしていました。それがケニアの人たちの日常だったわけですが、岸田さんはこれではいけない、と考えられて、現地の石と粘土を使ってかまどをつくることを指導されました。そうすると、どうなったのでしょうか?
まず、調理時の熱効率が良くなって、煮炊きに必要な薪の量が四分の一で済むようになった。焚き火と違って無駄に逃げる熱が少なく、一つの焚口から同時に鍋を三つかけられるようになっているので、こんなに燃料を減らすことができるのだそうです。その結果、まめに飲料水を煮沸消毒することができるので、衛生が改善して、乳児死亡率が劇的に下がりました。そうすると、子どもが死ぬことに備えて多産の傾向があった現地の人も計画的に出産するようになり、母体への負担も減りました。そして、それまでは薪を集めてくるのは、女性にとってかなりの労働量だったのが、今では子どもたちが週末に拾ってくる量で足りるようになりました。これはもちろん、森林資源の保護にもなります。
また、調理のときの炎の位置が高くなったので、つまみ食いなどする子どもたちの火傷の事故も減りました。お母さんたちが楽な姿勢で料理ができるようにもなりました。いやはや、良いことづくめではないですか。ここケニアでも、暮らしを構成するある一つのモノが変わると、その変化は暮らし全体に波及するわけです。
これこそ文化人類学者のように、ケニアの生活に飛び込んで、その中のひとつ「調理方法」を変えただけで、乳児の死亡率から森林資源の保護まで、文化を変えてしまった事例です。
生活者の文化を変える。新しい市場を創る商品を開発のためには、生活の現場に飛び込み、文化を体験・体感することの大切さがよくわかります。
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