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パーのサイン

最終回を宣告された5回裏。
1アウト、ランナー2塁。バッターは1番打者。
2対1。我がチームのリードは最小点数の1点。

相手チームは9戦全勝で早々と優勝を決めたリーグ最強のチーム。

1アウトを簡単に取ったあと、ピッチャーゴロを悪送球し、その後牽制球も悪送球。
悪いムードが漂う。

カウント、2ストライク1ボールから、出したサインは

 パー、外せのサイン。

若干20歳。しびれるスピードボールと切れきれの横と縦に曲がる二種類のカーブを武器とする若いピッチャーの唯一の弱点は、気負いすぎるその性格。

「外せ」のサインに意外な表情を見せるが、ここは強行。

ピッチャーの足が上がった刹那にセカンドランナーが飛び出す。読みは的中。
右バッターの外側に外したボールを受け取り、サードを睨む。

 良し、十分間に合う。

落ち着いてワンステップして、サードの足元にボールを送る。滑り込んだセカンドランナーのそのつま先に置かれたグラブにボールが収まる。

 タッチアウト。

落胆する相手チーム。歓喜する我がチーム。
勝利を目前に、ベンチの監督代行から「一度マウンドに集まれ」と一声。

内野手全員がマウンドに集まり。あとワンストライクを「好きな球で決めろ」とピッチャーに声が掛けられる。ピッチャーとみんなで決めた一球は、

 内角高めのストレート。

自信を取り戻したピッチャーが、自信を持って投げ込むストレート。
打者の胸元をえぐる。ファールチップしてミットに収まる。

試合終了。リーグ最強チームに一泡ふかせた、気持ちよい勝利。
試合後のチームメイトの興奮を、全員で共鳴しあい、心地好い余韻を残した残暑の9月の日曜日。