先日、映画「マネーボール」を観ました。ブラッド・ピット主演の2011年の映画です。なぜ今更なのかは、マーケティングの勉強会のテーマだったからです。
マネーボールのルールを変える、視点を変える方法をマーケティングリサーチに置き換えて考えるべく勉強会メンバーと一緒に観ました。そんな目的で観始めた本作ですが、私はもう少し違った視点で、ある感情がムクムクと沸いてきました。それらは、こんなシーンに象徴されています。
強肩で足が速くて、ヒットが打てる選手を採るという球界のデファクトスタンダードに苦闘するビリーに、他球団のスカウト担当だったピーターはこう言ってのけます。そして、その着眼点としての数字で「出塁率のよい選手を採れ」と。
誰も知らない価値を発見する。でも、それを実行するためには今の価値を破壊しなければならない。またビリーの苦闘がはじまります。
新しい価値を見出し、それを推進していくプロセスで、既存の価値の享受者からの批判にさらされます。それでもビリーはこう言ってのけました。
誰も知らない価値の実行は、誰にも分らないから誰にも相談できないし、決断をゆだねてはいけない。新市場へのダイブは孤独であることを思い知ります。
結局ビリーは数々の責任を自身で背負って、新しい市場に挑みます。そして、ある一定の成果を上げることになります。そんなビリーが映画の終わりに見せる表情が上の顔です。
一人車にのり、離れて暮らす娘が唄うフォークソングを聴きながら、こんななんとも言い表せない表情のままで映画は終わります。ボクはこのビリーの表情を観ながら、ある経営者の本の一節を思い出していました。
苦闘とは、そもそもなぜ会社を始めたのだろうと思うこと。苦闘とは、あなたはなぜ辞めないのかと聞かれ、その答えを自分もわからないこと。苦闘とは、社員があなたはウソをついていると思い、あなたも彼らがたぶん正しいと思うこと。
苦闘とは、料理の味がわからなくなること。苦闘とは、自分自身がCEOであるべきだと思えないこと。苦闘とは、自分の能力を超えた状況だとわかっていながら、代わりが誰もいないこと。苦闘とは、全員があなたをろくでなしだと思っているのに、誰もあなたをクビにしないこと。
苦闘とは、自信喪失が自己嫌悪に変わること。苦闘とは、苦しい話ばかり聞こえて、会話していても相手の声が聞こえないこと。苦闘とは、痛みが消えてほしいと思うとき。苦闘とは、不幸である。苦闘とは、気晴らしのために休暇を取って、前より落ち込んでしまうこと。苦闘とは、多くの人たちに囲まれていながら孤独なこと。苦闘は無慈悲である。
苦闘とは、破られた約束と壊れた夢がいっぱいの地。苦闘とは冷汗である。苦闘とは、はらわたが煮えくり返りすぎて血を吐きそうになること。苦闘は失敗ではないが、失敗を起こさせる。
ベン・ホロウィッツの「Hard Things」です。
http://ryu.jpn.com/archives/2703
ベースボールでも、会社経営でも、マーケティングでも。新しい価値の発見とその決断と、その結果の受容は孤独で苦闘であること。そんなことを思い出したビリーの横顔でした。
ルールを変える。市場を変える。世界を変える。そういう規模の新しいチャレンジには、孤独な苦闘の覚悟を持って臨まないと。できるかな、できるといいな : )
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