いったい世の中に、自分たちが愛している商品の価値を支持してくれる「ファン」を喜ばすことほど、楽しい仕事が他にあるだろうか。
ファンベースのこのメッセージがとても腹に落ちてきます。クチコミ・マーケティングを実践していると、こうした喜びを感じる場面がたくさんあります。その一方で「その施策は市場へのインパクトをもたらすものなのか?」という問いに対しては、ウェットに応えることはできても、ロジカルに応えきれずにいます。
そうしたファンベースの市場へのインパクトにまで言及しているところが、この本の興味深いところです。まず、さとなおさんはファンベースの効果について以下のように説明します。
ファンベースの効果、必然な3つの理由
- ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから
- 時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから
- ファンが新たなファンを作ってくれるから
なるほど。「3.ファンが新たなファンを作ってくれるから」は、ソーシャルメディアの一般普及に伴い、クライアントに対して上手に説明できるようになりました。それ以前も含めて「どんな素敵なコマーシャルメッセージやWebサイトよりも、友人の●●●がいいわよの一言にはかなわない」というように、ボクはクチコミの力を説明します。
「1.ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから」も時には、ABC分析やパレートの法則を用いて説明したりします。「2.時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから」はこの本から示唆をもらえそうで、新たな力にしたいと思います。
カゴメのカゴメトマトジュースは、上位2・5%のコアファンが全売上の30~40%を占めている
「1.ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから」の具体的な事例として、カゴメのトマトジュースの売上構成比を教えてくれています。
カゴメの代表的な商品、カゴメトマトジュースでは、上位2・5%のコアファンが全売上の30~40%を占めているとわかったそうである。驚きませんか?たった2・5%で、全売上の30~40%である。1日220円以上、年間にして8万円以上カゴメ商品を購入するコアファン層がカゴメの売上を支えているというのである。
具体的かつ強力なABC分析の事例です。特にボクは食品メーカーにクチコミを提案する機会が多いので、胸に刻んでおきたい話です。加えて「低関与な商品」においての継続的なコミュニケーションの必要性に関しても、きちんと説明をしてくれています。少し長いけど、大切なので以下に引用します。
飲料は一般に「低関与商品」と言われる。その生活者にとって重要度や興味が高い商品を「高関与商品」と呼び、重要度や興味が低い商品を「低関与商品」と呼ぶが、コンビニやスーパーで数秒で購入決定するような日用品は低関与商品が多く、飲料もその中のひとつと認識されている。
高関与商品においては「ヘビーユーザーやリピーター=ファン(支持者)」であり、支持がそのまま売上に直結することが多い。一方で低関与商品は「ヘビーユーザーやリピーター=ファン(支持者)」とは限らない。「別にどの飲料ブランドでもいいや」と思っている浮動層が多くいて、なんとなくリピートしている場合も多いのである。そしてその層の売上はバカにならない。売上比で言うと、彼らが売上のほとんどを占めている場合も多いのである。
あなたも「別にファンまでは行かないけど、なんとなくリピートしている商品」があると思う。例えばボクは最近、あるヨーグルト飲料をよくリピートするが、まだファンにまでは至っていない。他に似たような効能があるおいしい商品が出たら、そちらに移ってしまうかもしれない程度のリピーターなのである。そういう消費行動はその商品の現在の売上を支えているが、いつ違う商品に移ってしまうかわからない。なぜならファンでなく浮動層だから。そういうことが低関与商品では多くある。つまり、低関与商品も固定ファンをしっかり作っていくことが必要になっている。
「別にファンまでは行かないけど、なんとなくリピートしている商品」という関係性の時に、生活者にとって印象に残る、驚きが溢れるコミュニケーションを行うことが有効だと考えました。そういう商品であっても、あたなに買ってもらえること、クチコミしてもらえることをしっかりと見ていて、感謝していますよ。というアクションを可視化することです。
いつも、いつでも「上から目線」にならないように気を付ける
本の中にこんな一節がありました。
この本におけるコアファンとは、「はじめに」で説明した「ファン」の上位概念で、「企業やブランド、商品が大切にしている価値を強く支持する人」だ。いわゆるロイヤルティ(忠誠)が高い人々である。ロイヤルユーザーとかロイヤルカスタマー、エバンジェリスト(伝道者)などと呼ばれる層でもあるが、忠誠とか伝道とか、ちょっと企業からの上から目線っぽいので、この本ではシンプルに「コアファン」と呼ぶことにする。
内容はこの本におけるコアファンの説明ですが、ボクが共感したのは「ちょっと企業からの上から目線っぽい」という一文です。ファンベースという考え方にそってマーケティングを行おうと思ったときに、いつも、いつでも心に留めておかないといけないスタンスです。
マーケティングに携わり17年ですが、このスタンスを常に持っていないといけないと気付けたことが大きな分水嶺になっています。きっかけは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」というフリーミアムやシェアの力を示した本の中の糸井重里さんの解説文にあったこの一節です。
マーケティングが、いやな言葉に聞こえるのには、理由があります。それは、ある種のマーケティングが「大衆操作的」なものだと考えられているからです。「これをこうして、あれをああすれば、みんながこうなるだろう?」という考え方が、大衆操作的でないとは思えません。でも、「大衆操作的」ではないマーケティングもあるんです。むしろ、大衆のほうが、自らマーケットを創っていくようなマーケティングもあるんです。
マーケティングすることがカッチョいいことだと思っていたボクは、マーケティングされる側がマーケティングをいやな言葉だと感じていて、それはマーケティングが「大衆操作的」だからだということなんて想像もしていませんでした。とてもとてもハっとさせられました。
ファンベースのマーケティングではこのスタンスや視点を表にでるときだけでなく、プランニングの時にも日常の会話ででも本当に心の底で感じて、持っていないといけません。
そうすることで、糸井さんが言う「でも、「大衆操作的」ではないマーケティングもあるんです。むしろ、大衆のほうが、自らマーケットを創っていくようなマーケティングもあるんです。」という楽しく理想的なマーケティングの実践に近づけるものだと思っています。
常に生活者と同じ視点で、かつ市場にインパクトをもたらせるファンベースなマーケティングを考えていきます : )
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http://ryu.jpn.com/archives/6643