「新しい市場のつくりかた」では、新しい市場のつくりかたの一例として、顧客の声の聴き方の事例としてエピソードが使われる「ドリル穴」の話を元にこんな説明があります。
マーケティング論の教科書によくあるフレーズで、顧客が欲しがっているのはドリルではない、穴だというものがあります。メーカーが提供するのは、ドリルという形を持った現物ですが、顧客が求めているのはソリューションである。そうであるならば、ドリルよりも穴をあけるのに優れたものがあるならば、それを提供するように企業も対応して変化するべきであるということをわかりやすく表現しています。
しかし、企業がすでにドリルを製造する設備やドリルを開発する技術に投資してしまっているならば、そんなに簡単にもっと優れた穴あけツールに自らの事業を移すことは難しいことです。そんなことを言っても、わが社はドリルしかつくれないという会社が世の中にはたくさんあります。そのときに考えるべきことは、ある用途に合わせて手段をグレードアップさせていくのではなく、ある手段が可能にする新しい用途を開発していくことも活路たりうるということです。
そして「ある手段が可能にする新しい用途開発」の具体的な事例として、以下があげられています。
第一次世界大戦のときに開発された毒ガス兵器に備えたガスマスクのフィルターが、戦争が終わって大量に余りました。今、そのフィルターはティッシュペーパーとして私たちの暮らしに役立っています。
あるいは第二次大戦中に日本軍と太平洋の島々で戦ったアメリカ軍は、兵隊の水虫防止やマラリヤよけの蚊帳として、合成樹脂のフィルムを使っていました。アメリカのダウ・ケミカル社が製造していたそのフィルムは、今、開発者たちの妻の名にちなんで、サラとアンのラップで「サランラップ」と呼ばれています。
平和な時代には、大衆娯楽の手段として開発されたラジオに使われた真空管が、戦時には無線機やレーダーに必要な真空管の開発母体となりました。
ティッシュペーパーの起源は「ガスマスクのフィルター」だったり、「サランラップ」の語源はダウ・ケミカルの開発者の奥さんの名前だったり。クライアントととの話題の小ネタに使えそうです。
消費者のウォンツを水平展開して新商品を開発するこれまでの方法に加えて、ある手段(商品)を使いこなすことで新しい用途開発を支援する。そんなやり方にチャレンジしたくなる内容です。
Photo by JD Hancock