昨年末からゆっくりと、時間をかけながらマーベル・シネティック・ユニバース(MCU)の作品、いわゆる「アベンジャーズ」を公開順に見続けています。
きっかけは田中宗一郎(タナソー)さんのポッドキャスト「POP LIFE:The Podcast」と「2010s」という本。社会の空気感、社会課題を飲み込んで2010年代を横断してエンターテインメント映像作品としてメッセージを続けたアベンジャーズを2010年代の香りが残る今のうちに観て、消化しておきます。
フェイズ1の作品たちには兵器の問題や、テロ、格差社会、大災害などの社会課題に対するメタファーを感じました。フェイズ2は、見えないどこかで進行している脅威への不安と、いずれやってくるAiが人類の知能を超えるシンギュラリティとの戦いを示唆するテーマと捉えています。
今回はフェイズ3の前半、「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」までの7作品を観終えて、そのテーマについて考えます。2010年代を終えて2020年のはじめ、たった今世界は「新型コロナウイルス」の脅威にさらされています。この状況で2010年代にアベンジャーズが描いた戦いを観返していることに価値を感じています。大きな脅威に対して、世界が力を合わせてどう戦うのか。実生活の中で追体験している想いです。
以下の7作品に対する感想を、そんな想いを感じながら記録していきます。
13.シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)
14.ドクター・ストレンジ(2016)
15.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス(2017)
16.スパイダーマン:ホームカミング(2017)
17.マイティ・ソー バトルロイヤル(2017)
18.ブラックパンサー(2018)
19.アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018)
13.シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)
その結果、アベンジャーズを国際連合の監視下に置くという「ソコヴィア協定」への署名を命じられます。安心・安全な社会を担保するための監視社会の是非が問われていると感じます。そのソコヴィア協定への署名を止む無しとする「アイアンマン/トニー・スターク」とそれに賛同するメンバー、反対する「キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース」とそれに賛同するメンバーの内戦がはじまります。そこでは、思想・意思が異なる人たちとの分断の社会が描かれています。
お互いの主張を通し、それぞれの正義を全うするために、スタークは「ブラックパンサー/ティ・チャラ」や「スパイダーマン/ピーター・パーカー」を、スティーブは「アントマン/スコット・ラング」という新しいアベンジャーズメンバーを自分の陣営に取り込み戦います。結果、陰謀を巡らした黒幕であるヴィランを打倒しますが、本作のエンディングは気持ちよいものではありませんでした。
スタークとスティーブはお互いの主張を曲げずに、歩み寄らないまま本作は終わります。今、コロナに慄く世界を見渡すと、力強く解決に向けて力を奮うヒーローの存在は必要であるとボクは感じています。もしかしたら、今以前であったならば世界の均衡を保つための監視できる社会に共感していたかもしれません。
ちょっと脱線しますが、今の世界のコロナとの戦いの様子を見ながら、「サピエンス全史」を書いた「ユヴァル・ノア・ハラリ」がこんなことを言っています。
今回の危機に際して、我々は二つの重要な選択肢に直面している。1つ目の選択肢は「全体主義の監視」か「市民のエンパワーメント」か。2つ目の選択肢は「ナショナリストの孤立主義」か「グローバルな連帯」か。
彼が示す選択肢は、このシビル・ウォーの中で描かれた選択と重ねて見えてきます。監視かエンパワーメントか、孤立か連帯か。アベンジャーズの力を世界のために活かすには、どちらが正しいのでしょうか。
14.ドクター・ストレンジ(2016)
そんな状態を抜け出そうと、細い糸をたどってチベットに向かうストレンジ。そこで師と友と、新しい力を手に入れるが、その結果として資本主義経済社会に戻ることなく、世界に対する脅威と戦う道を選びます。アベンジャーズの中でも特殊な力を持ち、またチームの大きな力になる新たなるメンバーのストーリーでした。
15.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス(2017)
そして今回は、前作を観てアベンジャーズシリーズ全体を通しても、ボクの中でめっちゃ好きなキャラクターになった「ヨンドゥ」の活躍と死が描かれます。親の代わりに育てた息子のような「スターロード/ピーター・クイル」を救ったが上に、仲間たちに内部反乱を起こされて窮地に陥るヨンドゥ。そんな窮地を持ち前のズ太さと、めっちゃクールな武器「ヤカ」で乗り切り、最後は本作のヴィランであり、クイルの本当の父を名乗る「エゴ」を倒すために、クイルたちを守って死んでいきます。
ヨンドゥの死は残念ですが、彼がフィーチャーされた本作のストーリーはとても痛快でした。本作ではいずれアベンジャーズメンバーに加わる「マンティス」が初登場しました。
16.スパイダーマン:ホームカミング(2017)
世代間闘争とまではいきませんが、シビル・ウォーで活躍したにも関わらず、その後はスタークに子ども扱いされることを悶々とかんじるパーカーが起こした行動。それによって起きる問題や失敗。それを大人であるスタークが支え、助けて脅威を退ける小気味よいストーリーです。他のアベンジャーズメンバーよりも未成熟なパーカーの行動や、思春期である彼の恋愛模様が物語にエッセンスを加えて、ちょっとホロ苦く、キュンとするお話でした。
17.マイティ・ソー バトルロイヤル(2017)
シビル・ウォーでは登場しなかったソーの活躍を見るのが随分久しぶりに感じられます。同じくシビル・ウォーに参戦しなかった「ハルク/ブルース・バナー」も本作に登場し、重要な役割を担います。アベンジャーズの中でも上位の力を持つ2人が戦うシーンは迫力がありました。
脅威的な力を持つ姉ヘラとの戦いは、裏切られ、後に協力して、また裏切れられる愛憎劇を繰り返してきた弟ロキとの共闘で勝利をおさめます。ずっと食えない存在だったロキですが、この後に続く「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」ではソーを守って死んでいきます(彼の場合は本当に死んだのか信じられないところがありますが)。力強い父であったオーディンの最後は儚く悲しい最後でした。
ソーの強力な武器である「ムジョルニア」の破壊や、髪を切られるシーン、片目を失うこと。それから「サノス」との邂逅など、アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーにつながる伏線がたくさんあった作品でした。
18.ブラックパンサー(2018)
彼らが治める国は、本当は貴重な鉱物であるヴィブラニウムの産地であり、世界屈指の技術大国であることを世界に隠し暮らしている「ワカンダ」。ブラック・コミュニティの象徴であり、分断社会を暗示する設定になっています。世界からその存在を隠すために起きてしまった過去の過ちやしがらみ。それによって、ティ・チャラは窮地に陥ります。
世界からの分断を続ける祖国が起こした過ちを反省しつつ、ティ・チャラは再び立ち上がり本作のヴィランであるキルモンガーを打倒し、無事に王位を継承することになります。そんなプロセスを経て、ティ・チャラは自国の技術を世界のために活用することを決め、隠し続けたワカンダの秘密を世界に公開します。まさに「ナショナリストの孤立主義」から「グローバルな連帯」へと舵を切った、そんな物語でした。
19.アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018)
自らの野望を叶えるために、宇宙を飛び回りインフィニティ・ストーンを探すサノス。物語のはじまりは、ソーの国アスガルドにあるスペース・ストーンを奪うためにサノスが強襲した場面からはじまります。いきなり傷らだけのソー、ロキの謀略もサノスには通じず殺されてしまい、スペース・ストーンを奪われてしまいます。アベンジャーズの中でも実力上位のソーが全く歯が立たないサノスの強さが際立ちます。その後、物語は4つのストーリーがパラレルで進行します。
ひとつはこのままではサノスに勝てないと感じたソーが、姉ヘラに破壊されたムジョルニアの代わりとなる武器を探す物語。その道連れにガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの「ロケット」と「グルート」が加わります。
ふたつ目はサノスが狙うであろうリアリティ・ストーンがあるノーウェアに向かうガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのクイル、「ガモーラ」「ドラッグス」たち。みっつ目はタイム・ストーンを奪うためにサノスの部下にさらわれたストレンジと、彼の救出のために敵の宇宙船に乗り込むスタークとパーカー。
よっつ目は「ビジョン」の額に埋め込まれたマインド・ストーンを狙うサノスの部下の強襲され、ワカンダへの逃げ、そこで敵に立ち向かう、スティーブ、「ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ」、バナー、ビジョン、「スカーレット・ウィッチ/ワンダ・マキシモフ」、「ウォーマシン/ジェームズ・ローズ」、「ファルコン/サム・ウィルソン」、ティ・チャラなどのメンバー。
いずれもメンバーの力を結集してサノスからインフィニティ・ストーンを守りますが、ひとつひとつサノスが現れては奪われていきます。それぞれのインフィニティ・ストーンを奪われる場面では共通のモチーフが描かれています。「多くの人のための行動をとるのか、目の前の一人のための行動をとるのか」です。
最初のアスガルドでの場面では、ロキは兄ソーの命を天秤にかけられてスペース・ストーンをサノスに差し出します。タイム・ストーンを守り続けてきたストレンジは、最後にスタークの命を助けるためにそれを差し出します。ビジョンの額に埋め込まれたマインド・ストーンはワンダの力を使えば破壊することができましたが、ビジョンの命を優先しそれを額から外すことを優先したことで、結果としてサノスに奪われることになりました。
ひとりの仲間を犠牲にすれば宇宙の生物は救われるという場面で、アベンジャーズたちは仲間の命を選択しました。一方でサノスはソウル・ストーンを手にするために、実は愛情を持っていた娘として育てたガモーラの命を犠牲にする決断をします。その決断によって、すべてのインフィニティ・ストーンを手に入れ、宇宙のすべての生物の脅威となる力を得ることになりました。6つのインフィニティ・ストーンを集めて叶えたいサノスの野望は、宇宙中の生物を半分消すこと。それら集めることで、サノスは指をスナップするだけでその野望を叶えることができます。
強大な力を持ち、最悪な野望を持つサノスですが、その想いに至る背景には注目すべきものがあります。サノスが生物を半分にするための目的は「このままでは宇宙の均衡が守れないから」でした。それは、現実社会の気候変動を中心とするアクティビスト(社会活動家)の想いに通ずるものがあります。
世界を宇宙を守るためには何が必要なのか。それを考えた末にサノスは最悪の野望を持つことになります。現実世界のアクティビストはそんな結論にたどり着くことは決してないと思いますが、未来との折り合いをどうつけるのか、それを考えさせられる最強最悪のヴィランの背景にあるテーマです。
5つのインフィニティ・ストーンを手に入れて、最後の砦となったワカンダに強襲するサノス。ヴィジョンのマインド・ストーンを手に入れたとき、サノスに迫るのは新しい武器「ストームブレイカー」を手に入れたソーです。サノスの胸にその斧を突き立てたソーでしたが、その時サノスは指をスナップします。
ワカンダでタイタンで次々と灰となって消えていくアベンジャーズのメンバーたち。世界中、宇宙中の生物も同様に、無差別に半数の人たちが灰と消えていきます。アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーはそんな仲間たちを何もできずに見守るだけの、残されたスタークやスティーブ、ソーなどの憔悴した姿とともに終わります。
凶悪な力を手に入れたサノスに、半分のメンバーを失ったアベンジャーズはどう立ち向かうのでしょうか。いよいよアベンジャーズシリーズのクライマックスが近くなってきました。
フェイズ3前半のテーマは「孤立か連帯か、監視か委譲か、全体か個人かの選択と。未来と脅威とアクティビストの想いとの折り合いのつけ方」としました。うまくまとめられていませんが、コロナ禍の最中にある世界に問われているテーマでもあると感じています。
だから、最終章である「エンドゲーム」が早く観たくてたまりません。ヒーローたちはこの脅威をどう退け、どう折り合いをつけるのか。今の世界を考えるための、何か少しでもヒントがもらえればと思っています : )