ソーシャルメディアのプロモーション目的での活用では、Facebookが一歩抜きんでた印象です。先日のfMCTokyoで、日本における月間のアクティブログインユーザが1000万人を超えたという発表がありました。このプラットフォームに飛び込み、マーケティングを志向する企業のFacebookページも6万ページを超えた。と言われています。
そのようなFacebookをはじめとした、ソーシャルメディアでマーケティングを行う際に、参考文献として引き合いに出されるのがグランズウェルです。グランズウェルでは、ソーシャル時代の企業と生活者との関係構築のステップの一段階目として、生活者の声を聞くことを薦めています。傾聴戦略といいます。
当社ドゥ・ハウスも30年間のクチコミマーケティングの実践を通じて、聞き上手こそリーダーシップをとる。という持論を持ち、クチコミの基点となる、フィールドマーケターDOさんに聞く技術の教育を行ってきました。
インターネット以前からの研究を通じて、聞く技術には5つの力が必要であると整理しています。この5つの力はソーシャルのマーケティング活用時にも、応用でき必要となる力であると感じています。また、この5つの力を磨くことにより、傾聴戦略からもう一歩踏み込んだ、具体的な戦術まで見えてくることになります。
以下に5つの力と、それに付随する戦略を記載します。
1.ネットワーク力
時にはクチコミの基点となり、また時にはリサーチを目的としてインタビューの対象として適切なモニターのリクルーターとして活躍してもらうDOさんは、100世帯の友人・知人とつながりを持つことを目標にネットワーク力を培います。ここでの100世帯の友人・知人は、家族構成や旦那さん、お子さんの背景・人となりまで把握していることが条件となります。普段から、親密なコミュニケーションを交わすネットワークでこそ、話を聞いたり、伝えたり。が可能となります。
顔の見えるソーシャルメディアにおける、ネットワークも近しいものを感じます。生活者と生活者の関係もそうですが、企業と生活者の関係にも当てはまります。なるべく多くのネットワークを持つことは望ましいことですが、闇雲に数を増やすことは意味がありません。いざというときに、話が聞ける、話ができる誠実で親密なネットワークを築くことが、傾聴戦略の具体的な戦術の第一歩です。
当社が運営を支援するFacebookページの場合、親密なネットワークを築くために、第一に既存のお客様へFacebookページへの「いいね!」を薦めること。第二にゆるやかなFacebookADで、当該ページに興味を持ってくれたFacebookユーザとつながること。次に、当社のサンプリングサービスモラタメによって、商品を実際に使ったり、食べたり、飲んだりした生活者にFacebookページでその体験を話してもらうこと。というような優先順位で、生活者をFacebookページに招待して、ネットワークを築くことをしています。
2.ファクト・ファインディング力
事実を観察し、収集する力です。DOさんは、リサーチャーとして日々の生活や、友人と接したときに見た聞いた行動の中から事実を観察し、収集します。クチコミをするときには、日々収集した豊富な事実を共有し、流通させます。ファクト・ファインディングの際に注意しなくてはならないポイントは、行動を中心に観察することと、聞いたことの中に仮説が混じってないかを確認することです。行動は事実であり、仮説は時に希望や見栄などによって、意識しないウソを含む場合があるからです。
ファクト・ファインディングはソーシャル時代の傾聴戦略でも、中心となるアクションです。ソーシャルの中に流れる、生活者の声に耳を傾けるときには、行動を中心に、仮説が混じっていないデータに注目することが重要です。商品やサービスに関する、流通させるべきファクトを見つけたら、次のステップのホメるアクションに移ります。
3.ホメる力
DOさんはホメる力を養うために、1つの商品やサービスを100通りにホメる修行を研修します。ホメることは、ケナすことよりずっと難しく、グループインタビューなどで参加者に、ある商品やサービスについて忌憚のないご意見を問うと、ホメ言葉が2割に対して、ケナシ言葉が8割という結果になることが往々にあります。ケナし言葉は、商品やサービスを理解していなくても頭の中で思い浮かべることができます。でも、ホメ言葉はその商品やサービスを実際に使い、理解しないと生み出すことができない貴重なデータです。こうして生み出されたホメ言葉こそ、傾聴し、クチコミされるデータになるべきと思えてきます。
ソーシャル時代、Facebookによって最も有名になったホメ言葉があります。「いいね!」です。自分のことを良く知り、理解してくれる友人から表明される「いいね!」の一言に、喜び、楽しくなり、勇気付けられた経験がFacebookのユーザには多くあると思います。
企業のFacebookページの運営者も、ページやウォールの投稿に対する生活者からの「いいね!」が、運営のモチベーションとなることが多々あると思います。一方で企業から生活者へ「いいね!」を表明するシーンは、まだ見ることが多くありません。傾聴戦略の目的から考えると、ソーシャルメディアは企業が生活者からの「いいね!」を集める場所ではなく、企業が生活者に「いいね!」をする場所だと感じます。
Facebookだけでは、特定の個人の投稿に企業のFacebookページが「いいね!」をすることができない。という仕組みの制約があります。だから当社は、Facebookだけでなく、twitterやブログなど、生活者のCGMを広く観察し、ファクト・ファインディングをし、ホメて差し上げたい生活者の言葉を見つけて、それが個別でお礼を述べることができるプラットフォームなら、その生活者だけに向けて、お礼をしながらホメることをします。
それから、許可を得た上で、より多くの人が目にする可能性がある場所で、ホメたい対象の生活者の声をシェアするアクションを起こします。それが例えば、Facebookページなら、シェアした生活者のデータがまた、他の生活者に「いいね!」され、ホメられるという循環を生み出すことになります。
ホメる力がシェアを生み、シェアすることで次の「いいね!」を集めることができる好循環が生まれます。生活者が評価する企業は、自分の声を良く聞いてくれる企業。もう一歩踏み込むと、良く聞いた上で、賛同し、ホメてくれる企業です。
4.考える足
考える足とは、仮説を開発する技術の実践のことです。この言葉は考える葦をもじってつくっています。どうして足なのか?これは、机にかじりついて頭の中で考えるのではなく、フィールド(現場)に出て、身体をつかって体感して、データにまみれながら仮説をつくり出すプロセスが大切だからです。野外科学(フィールド・サイエンス)と呼ばれています。
フィールドマーケターのDOさんは、自分の生活する現場から常に生活者のファクトを収集し、企業のマーケティングに活用できる仮説を支援してきました。
ソーシャルの時代、生活者のファクトを収集できるフィールドが大きく広がりました。ソーシャルな空間の中で語られる、一日に数十億もの生活者のデータ。空間や時間を越えて、ソーシャルなフィールドに飛び込み、データにまみれながら考える足を実践することも、傾聴の具体的な戦術のひとつです。
5.ITリテラシー
DOさんは、インターネット以前からキャプテンシステムやパソコン通信など、コミュニケーションを活性化するテクノロジーをつかい、聞く技術を実践してきました。
ソーシャル時代では、いわずもがなですが。声を聞くために、想いを伝えるために、情報の受発信の技術として、PCや様々なウェブサイト、アプリケーションなど、ITを使いこなすことも、傾聴の戦術です。
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ソーシャルをマーケティングに活用しようと考えたら、この5つの力を養い、駆使することが必要です。例えば、Facebookで「いいね!」を集めたいと考えたら、その前に企業から生活者に「いいね!」差し上げることが大切です。
ソーシャルなフィールドでファクトを観察し、良いファクトには歩み寄り、ホメること。それから、より多くの人たちに良いファクトをシェアしることが、傾聴戦略の具体的な戦術です。