ザ・ウェイリング・ウェイラーズの誕生はトレンチタウンの住民のハートに火を灯し、その周辺にはびこるバビロンシステムに小さな斧を振りかざしました。これから、何かがはじまるゴングが、トレンチタウンに響きます。
その頃、もうひとつのはじまりがボブの周辺に起こります。後に妻となり、そしてバックコーラスアイ・スリーズの一人としてウェイラーズに参加する事となるリタ・アンダーソンとの出逢いです。
リタはトレンチタウンに暮らしながら、看護婦になるために勉強をしています。彼女は毎日家の前を通ってスタジオに向かうお気に入りのグループ、ザ・ウェイリング・ウェイラーズを温かな眼差しで眺めていました。リタは彼らの注意をなんとかひこうとして、私も歌を歌えるからオーディションに参加できるように段取りをして欲しいと無茶なお願いをします。ボブたちは子猫のような瞳をした純粋な女の子が一生懸命するお願いに応えます。
オーディションの結果、リタはザ・ソウレッツというグループのリード・シンガーとして迎えられ、ボブはそのグループのマネジメントを引き受けます。それからボブのリタに寄せる気持ちがアイに変わるまで、そう時間はかかりませんでした。1966年2月10日に結婚という二人のはじまりを迎えることになります。
リタは妻となってからもずっと、ボブのファンであり続けました。
リタはボブの死後、こんなメッセージを残しています。
Jahは生きています。ボブも生きています。彼の音楽は生きています。
ラスタファーライは永遠に生きつづけるのです。
ボブが私に遺した最後の言葉はこうでした。
リタ。オレはどこにも行かない。ずっと一緒にいるよ
そして、これは世界中の人々にも言えることなのです。
ボブはどんな時でも、私たちと一緒なのです。
彼の音楽を止めることは誰にもできません。
メッセージはすでに世に送り出されたのですから。ボブの言葉を借りれば、
奴らがオレの顔を見飽きたとしても、オレを追出すことなどできっこない
ということになります。ボブとその作品やメッセージについて語る時、
すべては彼の歌詞に含まれています。ボブはあらゆる人種や肌の色、
そして、階級を超えた何千人もの人々のために演奏し、
誰もが同じヴァイブレーションを感じたのです。
誰もが音楽以上の何かを感じとったのです。ボブとその音楽に対する人々の
反応を見るたびに、私は彼がやろうとしていたことの意味と目的を
心から理解できるのでした。
人は、神の子と神が啓示した者を通してのみ、神を知ることができると
聖書に書かれています。I&I(私たち)はボブの闘いが無駄ではなかった
ことを証明するために、この世に存在しているのです。
ひとつの愛、ひとつの神、ひとつの目的、ひとつの運命
ラスタファーライ!
その時はじまりを迎えたひとつの愛が、永遠に終わることがないものであることが良くわかるメッセージです。
Three Little Birds♪♪♪
Don’t worry about a thing
Cause every little things gonna be alright
Singin’ don’t worry about a things
Cause every little things gonna be alrightRise up this morning
Smile with the rising sun
Three little birds beside my doorstep
Singin’ sweet songs of melodies pure and true
Singin’ this my message to you
Singin’Don’t worry about a thing
Cause every little things gonna be alright
Singin’ don’t worry about a things
Cause every little things gonna be alright
3羽の小鳥♪♪♪
心配しないで だいじょうぶ
小さなことさ そんなこと
唄おう くよくよしないで
すべてきっとうまくいく今朝 目がさめて
朝日と微笑をかわしたら
3羽の小鳥がドアの外で 素敵な歌をさえずっていた
汚れなく純粋なそのメロディを
これが君へのメッセージだといってね
3羽の小鳥は歌いだした心配しないで だいじょうぶ
小さなことさ そんなこと
唄おう 何にも悩むことはないさ
すべてがきっとうまくいく
※訳文は筆者の勝手な解釈を含みます。ご了承ください。
後にボブのバックコーラスを担当するコーラス隊アイ・スリーズを唄った詩だと言われています。アイ・スリーズ、ボブの妻であるリタ・マーリィ、そしてマーシャ・グリフィス、ジュディ・モアットこの3人の儚く優しい歌声を私はライブで聞く機会を持つことができました。
私が高校生の頃です。日本で行われたレゲエのビックイベントで私は彼女たちと出会いました。すでに40の半ばを超えた彼女たちのルックスは、所謂黒人のおばちゃんです。
でも、イベント会場にハートビートが打ち鳴らされ、彼女たちののどが震えたら、辺りはアイ・スリーズ・ワールド変わります。強く触れたら壊れてしまいそうな、繊細で優しいその歌声。まさに3羽の小鳥のさえずりのようです。その場にいた万を超える人々が小鳥たちが逃げてしまわぬよう、そっと体をスウィングさせながら、そのヴァイブレーションに浸っていました。
富士山の麓の出来事です。
ボブはこのThree Little Birdsを、キングストンの56ホープ・ロード(彼の自宅兼レコーディングスタジオ。その前の通りの名前からつけられた名)の裏口の階段で創ったといわれています。そこはボブと仲間たちが共にガンジャを吸う溜まり場でした。誰かがガンジャのスプリットを巻くと、そこからこぼれ落ちるガンジャの種が地面に蒔かれ、それらを小鳥たちがくちばしでつつきます。愛しい小鳥に誰かが触れようとすると、小鳥たちは逃げてしまうのです。
ボブは小鳥たちに”心配ないさ”といい、その神から授けられた手で包みます。リタは常に苦悩するボブの傍らにいました。そしてボブは常にリタを包み込みながら”心配ないさ、いつかすべてがうまくいく”といい続けます。
死してなおリタに響くボブのロマンティシズム。
厳しいトレンチタウンで、守らなければいけないものができた男はさらに強くなっていきます。