彼らが同じステージで音楽を奏でること。それは必然でした。
多くのものに打たれ、でもそれと同等のチャンスを掴むための出会いを導いてくれたトレンチタウン。そこでは、ボブにとって最も貴重な出会いがありました。
心優しきバニー・ウェイラー
屈強の男ピーター・トッシュ
彼らとの出会いから程なく、ボブたちはグループを結成します。ザ・ウェイリング・ウェイラーズ-嘆き、涙を流すものたち-です。1964年のことでした。
前述の通り、それは当然の結果でした。なぜなら彼らはその出会いからほとんどを一緒に歌って過ごしていました。毎日、昼も夜も歌いつづけました。トレンチタウンのバラックの脇に座り、容赦なく降り注ぐ太陽に、犯罪者たちをそっと見下ろす星空に、そして希望と絶望の狭間にいる住民たちに向けてその歌声を響かせつづけたのです。
そんな彼らが通っていたトレンチタウンの”レゲエ・カレッジ”の師であるジョー・ヒッグスが、ほんの少し手を差し伸べることで、ザ・ウェイリング・ウェイラーズが誕生しました。
彼らはそのファーストシングルからトレンチタウンに大きな影響を与えます。シマー・ダウン。やりばのないパワーと怒りを闇雲に発散するために暴挙にいたる、トレンチタウンの若者に対し”少し落ち着けよ、戦いはもっと厳しくなるんだ”と唄った詩です。
当時、トレンチタウンのラスタファリアンたちにこのようなリリックを投げかけるアーティストは他にはありませんでした。分別なしに暴力を煽り、雲をつかむような希望を説き、無差別な愛を唄う。今のアーティストの多くがそうであるように、トレンチタウンに聞こえてくるレゲエ・ミュージックもリアルとはかけ離れた物事を唄うものでした。
ボブのウェイラーズは、ラスタファリアンの隣に座り、真実を見つめ、リアルを唄いました。そんなウェイラーズの詩に、人々は耳を傾けずにはいられません。シマー・ダウンは、トレンチタウンの住民の圧倒的な支持によって、あっという間にジャマイカのチャートの第1位に昇り、その後2ヶ月間もトップの座を守ります。
トレンチタウンで磨き続けた3つの才能が重なりあったとき、何かが動き、変わり始めました。ボブ、バニー、ピーターが磨き続けた研ぎ澄まされた爪は、1つの小さな斧になり、その小さな斧が今、巨木に向けて、大きく振りかざされようとしていました。
Small Axe♪♪♪
Why boasteth thyself, oh evil man
Playing smart and not being clever
I say you’re working inequity
To Achieve vanity
But the goodness of Jah Jah
I’doreth For iverIf you are a big tree
We are the small Axe
Ready to cut you down,
Well sharp, to cut you downThese are the words of my master
Keep on telling me
That no weak heart shall prosperWhosoever diggeth the pit
Shall fall in it
Whosoever diggeth the pit
Shall fall in itIf you are a big tree, let me tell you that
We are the small Axe, sharp ready
Ready to cut you down
We sharp to cut you down
小さな斧♪♪♪
邪悪な奴らよ なんでそんなに奢るのか
抜け目なく振舞ってはいるが 頭が良いとはいえない
不正をしても 虚しさが残るだけ
だけどジャーの御業は永遠なのさおまえがでかい木なら
オレ達は小さな斧だ
準備はできた
おまえを切り倒すため鋭く研ぎ澄まされているここに聖者の言葉がある
心弱き者は決して栄えることはできない落とし穴を掘ったものが
自ら落ちる
落とし穴を掘ったものが
自ら埋められるおまえがでかい木なら 教えてやるよ
オレ達は小さな斧だ やってやるよ
準備はできた
おまえを切り倒すため鋭く砥ぎ澄まされている
※訳文は筆者の勝手な解釈を含みます。ご了承ください。
このSmall Axeは、当時のジャマイカのリアルを”大きな木”と”小さな斧”をメタファーに使い、唄った、素晴らしいリリックです。自分たちを虐げつづけるシステムに対して歌った詩です。
ラスタファリアンはこうしたシステムや、システムを構築している人たちをバビロンと呼びます。バビロンは悪の力のことです。平和を愛する人たちを抑制するものです。
ジャマイカを植民地化していたイギリスもバビロン、政治家もバビロン、警察官もバビロンです。バビロンは皆大きな力を持っています。ジャマイカに立つ邪悪な大きな木です。ボブはその人生をかけて、音楽という小さな斧でバビロンを叩きつづけました。
そして、ボブとレゲエミュージックのまた素晴らしいところは、こんなにも力強く本質を伝えるリリックを、決して怒りに任せた暴力的なサウンドではなく、沈痛な悲しみのサウンドでもなく、優しく柔らかなメロディに乗せて唄うのです。
シマー・ダウンでそう言ったように、本当に戦いに勝つにはためには、力任せに進むでもなく、悲しみにくれているだけでもないのです。強く優しき心を持って立ち上がるのです。
こんなにも美しく、そしてリアルなレゲエ・ミュージックにトレンチタウンのラスタファリアン達が燃え上がらないはずがありません。バニー、ピーターという心強い仲間を得て、今まさにこのSmall Axe前夜のように、ボブの小さな斧が研ぎ澄まされ、振り上げる準備が整いつつありました。